第23話、カムラルの姫様、信じられないくらい高嶺の花なのに、案外気づけない
次の日、スクールの登校日。
オレはいつものようにサミィとラネアさんたちと馬車に乗り、スクールへと向かっていた。
「カリス、今日はまたいつにも増してご機嫌ですね」
「え? そう?」
ノヴァキやリシアとの出会いもそうだけど、何より昨日持ち帰った戦利品が、オレの気分を否が応にも上昇させていた。
使うにあたって、まだいくつか調べなくてはならないことはあるだろうけど。
うまくいけば昼間から堂々と町を……あるいは町の外を歩ける。
そう思っていたからだ。
「例の試験で組むっていうお友達のことですか? 確か、今日紹介してくれるって言う」
「……あ」
しかし、思い出すようにしてサミィにそう言われて。
オレは思わず固まってしまった。
すっかり忘れていた。
オレが自分勝手に口を滑らせてしまったいたことを。
「ええと。それはそのオレの勘違いだったんだよ。オレが一方的にそう思ってただけだったっていうかさ。だから、試験で組むって話は白紙かな、一応」
「なんですかそのうろたえようは。嘘ですね? もしや紹介するのが恥ずかしいんですか?」
「……恋人?」
「な、なんやて~っ!?」
いきなりだったから、やっぱりぼろが出てしまったらしい。
ジト目のサミィに、変な邪推……というか度肝を抜かれる台詞を口にするケイラさんと、オレの気持ちを代弁するみたいに素になって大声を上げるラネアさん。
「はは、まさか。オレにそんな縁があるわけないでしょ。……いや、まあ確かに恥ずかしいっていうか、言いにくいことではあるかな。確認もしないで勝手に友達だってはしゃいでさ」
ひいき目に見ても、打ち解けたとは思ったけど。
言葉ではっきりと確たるものを得られたわけじゃなかった。
それに、長年オレをやってるわけだから態度で分かる。
ノヴァキは、明らかにオレと一線を引いていた。
カムラル家のものだからっていうのもあるかもしれないけれど。
タインやルレインがオレと接する時も同じものを感じていたから、それがすぐに分かるようになったのだ。
リシアはそんな事なかったけれど、それは正体が知られてなかったからこそなのかもしれないし。
「すみません。余計な事を聞きました。だから泣かないでください」
「え? 嘘! ……って、泣いてねーよっ!」
しんみりとした口調でそんな事を言うものだから思わず目尻を押さえたけど、当然そんなものはなく。
思わず抗議すると、さっきのはフリだったのか、あきれ返ったような顔をしたサミィがそこにいる。
「そんなの自分で分かるでしょうに。カリスは素直すぎるんです。もっと人を疑うことを覚えないと、いつか痛い目見ますよ?」
「うぐぐ……」
自分からそう呼んでくれって言ったんだから仕方ないけど、これじゃどっちが年上だか分からなくなってくる。
思わず言葉につまるオレに、見ていて飽きないって感じの笑みばかりが向けられていて……。
そんな風に妹にさんざん苛められたオレは。
おかげ様で上がりすぎていた気分もすっかり元に戻るどころか、ちょっと下降気味でスクールの門扉をくぐった。
ラネアさんたちとは、そこで別れる。
スクールの関係者と生徒以外原則立ち入り禁止なせいもあるけど、ここでは警護が不要だからだ。
国土の五分の一を占めるユーライジアスクール。
そこには、十年前の魔物襲撃の際にも破られることのなかった無敵の結界魔法が貼られている。
なんでも、四王家の長が共同して作ったものらしい。
そんなわけで、ラネアさんたちには悪いけど、オレの数少ない自由を感じられる場所、なわけで。
そんなスクールの門扉をくぐってすぐ。
学び舎まで続く均された広い一本道の両脇にあるのは、『グラウンド』と呼ばれる場所だ。
平らで広大な草原、森林地帯であるその場所には、様々な動物や獣型の魔精霊たちが暮らしていて、授業や試験などでよく足を踏み入れるのだが、広すぎて迷子になる人も出てくるほどだ。
まぁ、それでもここは安全を約束された箱庭のようなもので。
魔物の徘徊する街の外……『フィールド』の怖さには、及ばないんだろう。
「なぁ、サミィ。やっぱりこの専用道路ってやつどうにかなんない? みんなの通行の邪魔でしょ」
門扉から学び舎までの大きな道をぶった切るように真ん中に通された赤絨毯の道。四王家とそれに属するものしか渡ることの許されない道。
そのごく少数のおかげで両脇は渋滞していて。
さらにその渋滞から人が零れ、専用道路にみだりに足を踏み入れぬようにと人の列ができていた。
言葉を交わした機会すらないのに、ルートの下で働くスクール直属の風紀の人たちが、専用道路を歩く人を守っているからだ。
「……カリス、言葉遣い」
「……」
思わずわぁーって叫んで絨毯をぐるぐるに丸めてぽいしたい衝動に駆られたが、冷たくサミィにそう言われて、オレは条件反射で黙り込んだ。
サミィには悪いけど、サミィのようないかにもって感じの丁寧な言葉遣いは、苦手だった。
故にオレは基本には授業中、あるいは友達に対してを除き、あまり口を開かないようにしている。
喋ればすぐにぼろが出るからだ。
そのまま、寡黙な召使いよろしくサミィの後をついてゆく。
遠い喧騒。
ユーライジアじゅうの子供たちが集まっているのに、その賑やかさと遠いところにいる。
いつもは学び舎に入るまで視線をサミィの綺麗な髪から逸らすことはなかったけれど。
今日ばかりはどこかにノヴァキやリシアがいないかなって気になって、辺りを見回してみた。
(……いないか)
しかしこれだけたくさんの人がいると、そう都合よく見つかるはずもなく。
執拗に視線を彷徨わせていたのがまずかったんだろう。
それはいつもならばしない行動だったから。
遠巻きにこちらを眺めている人たちの中に、動揺が走るのが分かる。
もっと子供の頃はそれが結構楽しくもあったけれど。
何かあるなら直接言ってくれればいいのに。
そう思うようになってからは、正直あまりいい気分じゃなかった。
見世物、晒し物。
そんな言葉がオレの頭の中に浮かんでくる。
「カリス」
「……分かってるよ」
気にするな、という意味合いの篭ったサミィの一言。
オレはそれに頷き前だけを見る。
どよめきはまだ続いていたけど、それは明確な言葉となってオレの耳には届かない。
ただオレが視線を向けたことで、何かしらの迷惑がかかったことだけを理解する。
(改めて考えるときついな……)
『夜を駆けるもの』としての奔放さと対比してみて、ひどくそれを実感する。
さすがに授業が始まればここまで思うことはないけれど。
ノヴァキの言った通り直接話したりとかしていたら。
ノヴァキに多大な迷惑がかかるだろうことは容易に想像できて……。
(第24話につづく)
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