第53話 帰省終了
俺が新年早々にさんざんっぱらリリアンネを堪能した、翌日。
「ただいまー」
「ただいま帰りましたよ、勇太」
父さんと母さんは、俺が朝食を作るよりも先に帰ってきた。母さん、案の定肌がいつもよりツヤツヤしてんな……。
おっと、朝食作らねぇとな。準備してたとこだし。
「今日は俺が作るさ。作らせてくれ」
「おっ、なら頼んでみるかな」
「そうね、
助かるぜ。
さて、何にしたものか……コンソメスープとパンにしよう。たまには洋食も、食べたくなるのさ。
キャベツやニンジン、ソーセージを細かく切って、鍋で煮る。塩コショウで味を調え、俺自身も含め4人分用意する。
都合10分強の調理が、あっさりと完了した。
「出来たぜ」
「おっ、イイねぇ」
「美味しそうですよ、勇太」
「早く食べたーい!」
見た目も匂いも、上々の仕上がりだ。
今や遅しと、皆が待っている。
「そんじゃ、配るかな」
急ぎすぎず、ただ無駄なく配膳する。特に何事もなく終わる。
「さて、そんじゃ。いただきます!」
「「いただきます!」」
俺たちはいつも通り、朝食を食べ始めた。
~~~
「「ごちそうさまでした!」」
同時に食べ終える。
俺はすぐさま食べ終えた皿を回収し、軽く水に浸けてから食洗機に放り込んだ。
「おう、勇太」
と、父さんが俺を呼ぶ。
「何だ?」
「年も明けたことだ。帰省はそろそろ終わりでいいだろう」
ああ、そうだった。
三が日が過ぎるのを待たず――2日か3日の昼間に、俺は帰るんだったな。
「だな。去年も2日に帰ったわけだ。……とは言っても、今年はリリアンネがいるぞ?」
「ああ、確認取らんとダメか」
父さんがリリアンネのいる場所に首を巡らせた瞬間、リリアンネが答えた。
「お任せします」
「おっ?」
「ゆーたが帰るって言えば帰りますし、もう一日いるって言えば私もそうします」
「なるほどな。だそうだが、勇太。どうする?」
そんなもの、決まっている。
「今日で幕浪に帰るぜ。今から支度する」
「あいよ、送ってやる。もっぺん景色見てみたいしな」
帰省初日と同じだ。ぶっちゃけ全国規模に開通したリニアでもいいのだが、父さんはときどき車を走らせて景色を楽しむ趣味があるからそれに便乗する。交通費の節約にもなるしな。
好意には甘えるし、ことのついでに何かメリットがあれば乗っかるさ。
「リリアンネ、準備してくれ」
「はーい」
やると決めたからにはすぐにやろう。
俺たちは歯磨き、着替えから荷物まとめまで、40分で終わらせた。
***
「そんじゃ……次は来年かな」
支度を終えた俺たちは、駐車場に入って車に乗る。
これから1年近くは、戻ることもなさそうだった。
「世話になったな。これからも、幕浪で学生生活してるぜ」
「おっ、去年帰るときと違って随分前向きじゃねぇか」
「だろうな。リリアンネのおかげだ」
そうだ。去年は死人のような気分だった。
大学の授業に何ら意義を見いだせず、ただ単位を取って卒業するために通っていた。娯楽と言えば礼香とたまに話すことと、そしてエロゲーだけだった。
車に乗り込み、ドアを閉めてシートベルトもきっちり締める。
「乗ったな? そんじゃ、車出すぞ」
「はいよ」
動き始める景色を見て、俺は思いをはせ続ける。
死ぬほどつまらなかった大学生活だったが、リリアンネと出会ってからは違った。わずか20日くらいしか経ってないけど、心の中の曇りがきれいさっぱり取り払われたような気分だった。間違いなく、俺の心に良い影響を与えてくれていた。
今までずっと恋愛に興味がなかったのに、あれよあれよという間に俺も好きになってしまった。
俺も気持ちを正直にして、好意を告げられた。返事を曖昧にして恋が叶わない、なんてことはなかった。リリアンネならそれもないだろうけど、こういうのは俺から言うのが肝心だった。
ともあれこの帰省で、だいぶ関係は深くなったと思ってる。
ずっとやりたかったことも出来た。させてくれた。
父さんと母さんもリリアンネに理解を示し、しかも好意的で、恋人となることを受け止めてくれた。そういうのも含めて、最高の帰省だった。
まだ冬休みはあるけど、近いうちに大学生活に戻るだろうな。
なんて思いながら、俺は寝落ちしていた。
……あんな事件が、大学再開早々に起こるだなんて思わずに。
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