事件

第54話 極悪生徒の噂

 その後も変わらず冬休みを過ごし、そして授業再開の日を迎えた。

 リリアンネとの仲が深まってるのを実感しつつ、俺は通学する。


 途中で同じ専攻の奴にリリアンネのことを聞かれたが、もう彼女の存在を隠す気もない。とはいえ、異星人という事実は伏せるが。

 熱心でベタ惚れな恋人として、俺の大学に一緒にやって来ている。


 ぶっちゃけ君島先生が割と積極的にリリアンネの存在を異星人学部生に広めているので、だいぶフリーパスに近い状態だ。元々部外者の立ち入りも制限されてないので、リリアンネは去年の時点でクラスになじんでいる。


 俺とリリアンネがのんびり話しながら通学してると、女子二人の会話が聞こえてきた。


「ねー、聞いたー?」

「何の話ー?」

「あの“文系の破壊王”さー、今日から停学明けて戻ってくるらしいよー?」

「ウソー、ヤバいねー」


 なんだか、妙に引っかかる話だ。というか、嫌な予感がする。初詣に行ったときと同じ、胸がむかつく予感だ。


 “文系の破壊王”……か。君島先生なら何か知ってるかもしれないな。

 俺は拳を握りこみながら、学校まで向かう足を速めた。


     ***


「おう、おはよう武士道。リリアンネさんも」

「士道です!」


 相変わらずのやり取りだ。張りつめた気持ちが一瞬だけ緩む。

 さて、聞くことを聞くか。


「先生、ちょっと気になることがあります」

「何だ?」

「“文系の破壊王”……って、何かご存知です?」


 その言葉を聞いた瞬間、いつも温厚な君島先生の表情が鬼のごとくになった。


「ああ、あいつか……。もちろん知ってるさ。この龍善大学で一番の、大問題児だからな」

「本当ですか……。俺は初耳です」

「なら、少し話すか。まだ時間も30分ほどあるし、それに俺の受け持ちはあいつと無縁な学部だからな」


 先生は「まあ座ってくれ」と言って、俺たちを座らせる。俺とリリアンネ、そして先生自身も座ると、話を始めた。


「あいつの本名は“懐王かいおう 猛流たける”。龍善大学ウチの3年生だ。1年の頃から素行不良でな……群れて飲酒・喫煙で授業を荒らすのはもちろん、迷惑行為のオンパレード。あいつに壊された備品は何点にのぼることか。ついに犯罪に手を染めて、懲役ついでに停学処分を課されていたが、たぶんもう明けてるだろうな。昨日あたりか……」

「懐王……」


 嫌な予感と同時に、思い出してきた。

 幼稚園でさんざんっぱら俺と礼香にケンカを売ってきた、あのクソ野郎と同じ苗字だ。


「武士道、心当たりがあるのか?」

「……はい。たぶんそいつ本人じゃないんですけど、もしかしたら弟あたりと前に出会ったことがあります」


 これか。リリアンネが『ちょっと近いうちに、関わることになるかもしれない』って言ったのは。


「ああ、ご名答だ。弟もいる。それも龍善大学ウチの学生として、いるぜ」


 案の定だった。しかも、よりにもよって同じ大学かよ。

 もしかしたらお互い忘れ去ってる可能性もあるが、ぶっちゃけいつどこで出くわすかわからない。

 つーか、なんでそんな奴がのさばってんだ?


「退学処分にはしなかったんですか?」


 俺がそう聞くと、先生は渋い顔をして答える。


「厄介なことに、あいつは退学の話をした職員をリンチして半殺しにした過去があってな。ついでに、半グレ組織との繋がりもあるらしい。脅迫に屈したバカな役員の一部が、『退学はまずい』って言いだしたんでこのザマなんだよ。賄賂の話もあるしな」

「えぇ……」


 今日日きょうび、そんなことがあるのか。

 隠ぺい体質なのか、事なかれ主義なのか……どちらにせよ、時代遅れだとしか思えなかった。つーか情報共有時代となって久しい今の今までよく漏れなかったな、こんな悪評ザマ


「さっさと警察沙汰にすりゃあいいのに、どいつもこいつも……。それが原因で龍善大学ウチからはどんどん優秀な職員が離脱しだしてる。俺の同僚も、今年いっぱいで転勤するんだと」


 なるほどな。俺が来る前から、メチャクチャだったわけか。


「とまぁ、だいたいそんな感じだ。役員たちは一応、次同じことをしでかしたら退学に処すと警告は出してるが……そんなもんでおとなしく引っ込むとも思えねぇ。さらには噂だが、覚せい剤や売春あっせんの話まで聞いた。気を付けな、武士道、そしてリリアンネさん」

「はい……ありがとうございます」


 それだけ言うと、先生は授業のセッティングを再開する。

 まったく、久しぶりに大学来た早々、嫌な気分だぜ……。


「ゆーた」


 ムカついてたところに、リリアンネが耳打ちしてきた。


「今日は長い一日になるかもね」


 ……ん? どういう意味だ?


「そのままの意味だよ。ちょっと覚悟決めといてよね、ゆーた。私もだけど」

「あ、ああ……」


 リリアンネの言ってた意味は分からないが、ひとまず言われた通りにするしかなかった。




 どうなるんだ、いったい……?

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