第50話 熱い夜、それから年越し

 そして。俺たちはお互いの“好き”を共有するかのように、お互いを求めた。

 ロマンチックな童貞卒業はエロゲーの世界だけだと思ってたが、俺は現実に味わった。

 ベッドで、お風呂場で。俺たちは溶け合ったと錯覚するくらい、愛し合った。夕食も何もかも忘れて、ただ目の前の恋人リリアンネをひたすら求めていた。


 気づけば、時刻は22時を指していた。

 1時間もお風呂場にいたのを実感しつつ、俺たちは上がって服を着始める。


「えへへ……ゆーたぁ。最高だったね❤」

「ああ、リリアンネこそな。惚れ直しちまったぜ」


 それとほぼ同時に、玄関扉が開く音がした。


「おう、ただいまー勇太」

「ただいま戻りました」


 父さんと母さんだ。本当に22時まで、買い出しに行ってたんだな。


「おかえりー」

「お帰りなさい、うふふ」


 俺とリリアンネが出迎えると、父さんと母さんは何かを察したように笑みを浮かべる。


「ほっほう……。勇太とリリアンネさん、やることやったな? 俺たちの思った通りによぉ。孫の顔が早く見てみてぇぜ」

「あら、あなたったら……うふふふ」


 やっぱりだ。そんなこと考えて、俺たちを2人きりにしたのか。

 今となって気づいたが……ふふっ、正直最高だったぜ。やっぱり最高の父さんと母さんだ、二人とも。


 俺は無言で、父さんと母さんに見えるようにガッツポーズをかました。

 そして、二人の元まで歩み寄る。


「ありがとな。そんじゃ早速だけど、荷物持つぜ」


 俺はあふれる嬉しさと若干の照れを隠すように、急ぎ足で荷物を冷蔵庫の前まで運んだのであった。


     ***


 翌朝。

 俺とリリアンネは一緒の部屋で、ぐっすり眠った。目が覚めたときには、いつの間にか抱きしめ合っていた。それに気づいて言い合ったときは恥ずかしかったけれど、もう今までより仲がさらに深まったことを実感する。


 それからは朝ごはんを食べて、近くの神社にお参りだ。初詣はつもうでには一日早いって? これは「今年一年、ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いします」のお参りだからいいんだよ。

 俺たち士道一家は、お参りしながらリリアンネに作法を教えたりしてたなぁ。


 家に帰って昼食を食べたら、昼寝の時間だ。特別な夜ふかしをするための、な。

 本当は健康の大敵である夜ふかしだけど、大みそかの今日だけは違う。父さんと母さん公認の夜ふかしだ。そしてそれをするように、今、たっぷり昼寝する。


 夜になったら、年越しそばだ。大みそかには必須の食事だ。

 リリアンネに説明すると、思いをはせるような表情をしながら食べていたな。いいすすりっぷりだったぜ、まったく。


 ……そして。

 俺たちは今、除夜の鐘を聴いている。


 存続するかどうかという問答もあったけど、俺たちの家の近くでは、存続を望む声が多かった。もちろん俺たち士道家も、存続を望んでいた。


 このあたりでは、「108回目の鐘の音が鳴ると同時に、年越しを迎える」というちょっと変わったローカルルールがある。

 鐘が鳴りだし、重く厳かな、そして日本にいることを実感させる音が聞こえる。


「ねぇ、ゆーた」

「何だ?」

「この鐘の音は、どういう意味があるの?」

「俺たち地球人の、いや人間の煩悩ぼんのうを……心の乱れを消すという願いを込めて、鳴らしているのさ。人間は108もの煩悩があるからな」

「奥深いんだね」

「ああ。特に日本やその周辺の歴史は深いぞ。俺たち日本人が胸を張って誇れる文化だ! いくらでも、紹介するさ」


 俺は日本人に生まれてきたことを、心底から感謝していた。

 こういう素晴らしい伝統文化があり、エロゲーなどの創作も発展していて、そしてそのおかげでリリアンネと出会えたんだから。


 こうして話している間にも、除夜の鐘は鳴り響き続ける。

 ふと時計を見れば、23時59分を指し示していた。


「もうすぐだな……新年」

「そうだね」

「リリアンネ。出会ったのは今年の終わりだったけど、来年もまた、よろしくな。恋人として、ずっと一緒に過ごす相手として」

「うん。こちらこそ、よろしくね。ゆーた」


 そして、時計が0時0分0秒を指す直前で。




 最後の除夜の鐘が、鳴り響いたのであった。

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