第49話 二人きりとなった実家で

 ……ん。ここは――って、リリアンネ。


「あ、起きた。おはよー、ゆーた」

「ああ、おはよう……」


 ああ、俺は気絶してたのか。てか、ちょっと待て。

 リリアンネ、近すぎねぇか?


「うふふ。やっと二人きりになった」

「おい、何をするつもりだ?」


 よく見ると、頬も紅潮している。

 どんどん顔が近づいて――ちゅっ、と唇が触れた。


「んっ!?」

「んふふっ」


 リリアンネは俺の頬に手を添えながら、唇を触れさせ続ける。

 俺の息が続かなくなるギリギリまで、キスは続いた。


「ぷはっ」

「はっ、はぁっ」


 危ないところだった。もう少しで窒息していた。あるいはリリアンネが、タイミングを計ったのだろうが。


「うふふ……ゆーたぁ」


 と、リリアンネは、妖艶な笑みを浮かべる。今まで見たことがない笑い方だった。


「ずっとずっと、待ってたんだ。ねぇ、私、今まで感じたことがない嬉しい気持ちがあるの」


 リリアンネは豊満な胸を見せつけるようにしながら、俺が倒れざるをえない体勢になる。俺と正対して四つん這いになり、しかも俺の目の前におっぱいの谷間があり、そしてとろけるような笑顔を浮かべていた。


「恋心……とは、ちょっと違うかな? なんて言うんだろうね、私をゆーたのものにしてほしいって思っちゃってるの」

「リ、リリアンネ……」

「ねぇ、ゆーた。私が今まで生きてきた中で、一番真剣なお願いがあるの」


 何だ、それは……とは、口にしなかった。

 敢えて口に、言葉にするまでもない。


 今は仮の恋人だ。俺は礼香との関係や気持ちをきれいさっぱり、清算する必要がある。


 けれど、一人の男として、目の前にいる美少女を無視するわけにはいかない。ないがしろにすることはできない。俺の美意識を踏みにじり、はっきりさせるべき気持ちを後回しにするだろうけれど。

 それでも、今はリリアンネの言葉を聞く。


 ――言ってくれ、リリアンネ。お前のお願いを、言葉にしてくれ。

 俺は何だって、受け止めてやる!


 俺は伝わるのを信じて思い、そして聞き届けんとする。


「勇太。私と……一生、添い遂げてくれますか?」


 リリアンネの願いが、言葉となって部屋に響いた。

 俺は前からあたため続けていた、決断をリリアンネに伝える。


「当たり前だ。むしろ、俺でいいのかと思うくらいだ。リリアンネが異星人だろうがそうでなかろうが、俺は一人の女性として、大好きなんだ。俺の方こそ、頼みたいことがある。リリアンネ、俺は地球人だ。長く生きて、おおよそ80年だろう。それでも一生、俺と一緒にいてくれるなら……それ以上に、嬉しいことはないだろうな」


 言った。言ってしまった。言葉にした以上、もう取り消せない。

 果たして、リリアンネは――顔を真っ赤にして、相変わらず笑みを浮かべていた。それだけにとどまらず、目に涙があふれだしている。


「リリアンネ、大丈夫か!?」

「んっ、大丈夫……。なんだろう、これ……? 勇太にそう言ってもらえたのが、すっごい嬉しくて……溢れて溢れて、止まらないよ……!」


 いいんだ。もっと泣いて、いいんだ。

 なんてキザな言葉は口にはできないけど、それでも心の中で思ってしまった。リリアンネの前では、口にしたのと同じだな。


「うん……うんっ……!」


 案の定、読み取られていた。けど、俺たちはそれでいいや。言葉は隠さず、でも傷つけず。

 とにかく、今日だけでも、キザったらしくなってやる。




 俺はリリアンネが泣きやむまでずっと、そばにいた……。

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