第48話 幼稚園時代

「俺が……勇敢だった、から?」

「そうだよ。一番最初に、“見守る対象”から“興味深い子”になったのは、それがきっかけ。あれは……確か、ゆーたが幼稚園に行ってた頃だね」


 リリアンネは、穏やかに淡々と続ける。


「乱暴な子と、事あるごとにケンカしてたからね。ゆーた、小さい頃から腕っぷしも強かったんだね」

「腕っぷしか……。あー、そういえばいたな。どっか行ったみたいだけど、俺と仲がすげえ悪いやつ」


 ぶっちゃけ、全然顔と名前を覚えてないが、そいつと頻繁にケンカしてたのは思い出した。

 いつもいつも、あいつから突っかかってきたんだったな。俺や礼香が遊んでるときに邪魔したり、いちゃもんつけてきたり。幸い園でも問題児認定されてたから、先生たちは必ずと言っていいほど俺たちの味方だったけど……。


「そうそう。最初は子供のじゃれあいだと思ってたけど、割とその子、心が汚れかけてたみたいでね。ゆーたの綺麗さと比べたら、一目瞭然だったよ」

「なるほどな……」


 と。ちょっとした好奇心というか、警戒心というか、そんな気持ちが湧いてきた。


「ところで、ふと気になったんだが」

「なに?」

「そいつ、その後どうしたかわかるか?」

「うーん、私はその子の観察は専門外だけど……もしかしたらちょっと近いうちに、関わることになるかもしれないかな」

「うげっ……」


 できれば関わりたくはなかった。

 だが、リリアンネの未来余地は正確だ。そして、俺に嘘をつく理由もないだろう。


「ただ、とりあえずこの辺りにいる間は大丈夫そう」

「大丈夫……?」

「うん。すれ違うくらいで済みそうだよ」

「……」


 どちらにせよ、気分的にはあまり良くないもんだった。


「うーん、ゆーたが落ち込んできてるからこの話はここまでね。ただ、それからずっと見守ってたら、やっぱり私好みに育ってきたから……」


 ん、んん? なんか照れだしたぞ、リリアンネ?


「好奇心でゆーたの好みを追っているうちに、いつの間にか惚れちゃった。えへへ」

「お前なぁ……」


 ノロケかよ。こんな脈絡もぇタイミングで。

 ふと父さんを見ると、盛大にニヤけていた。


「おうおう、もうイチャつきだすとは、若いってなぁイイねぇ」

「父さん!?」


 父さんはソファーから、お茶を持って立ち上がる。


わたくしたちはお邪魔でしょうから、そろそろ切り上げますわね。ところであなた、まだ年越しそばやお雑煮の材料を買ってませんでしたわね? いつ買いましょうか?」

「母さんまで……!」


 いつも準備には抜かりないはずの母さんまでも、何か変なことを言い出した。


「そうだな母さん、今からにするか!」

「うふふ、あなた。あちこちで見て回るでしょうから、しばらく時間がかかるでしょうね。そう、22時くらいまでは帰れないでしょうね」

「決まりだな! 夕食は……作ってもらうか。レトルト買い込んでるし」

「そうね、うふふ。勇太、リリアンネさん。急で申し訳ありませんけど、お願いしますわね」


 えっ……えっ? 何が起こってる?


「はい、大丈夫です! ほらゆーた、部屋行こっ」

「待て待て待て待て、いったん落ち着け――ぎゅむっ」


 気づけば目の前に、リリアンネのおっぱいがあった。




 そして玄関の施錠音が聞こえた瞬間、俺は気を失った。

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