第40話 移動中の車内で

「さて、と」


 高速道路に乗って少ししたところで、父さんが切り出してきた。


「勇太、お前の彼女さんとはどこで知り合ったんだ?」


 早速えげつない質問が飛んできた。ぶっちゃけ、嘘設定を作ってない。

 ここは俺の記憶にある、東京に出かけたときにするか。


「東京だな。ぶらついてたときに知り合ったんだ」

「ほっほう。どうやって?」


 またまたえげつないな。どうでっち上げたものか……。


「男の人たちに詰め寄られているときに、助けてくれたんです」


 リリアンネ!?

 と、俺を見てウィンクしてくる。なるほど、「任せて」ってことか。


「ドラマチックだなぁ。なるほど、そういうことか。どこでここまでの美人を連れてきたかと思ったが……驚きだぜ」

「うふふ、ありがとうございます」


 おっ、どうやらしのいだか?


「では、そろそろわたくしも。リリアンネさんは、どちらからいらしたのですか?」


 いや、まだだった。今度は母さんか……!

 とはいえ、これは大丈夫そうな気がするな。


「イギリスから、参りました」

「あら、うふふ。イギリス、ですか……」


 まずい、思わぬ伏兵が現る。母さんのあの仕草しぐさは、疑いの目を向けてるときだ……!


「実はこれでもわたくし、イギリスをはじめとした諸国に関する事柄をたしなんでおりまして」


 ひえぇ元お嬢様の46年も培った教養が、盛大に炸裂さくれつしようとしてる……! なんでごく普通の成人男性だった父さんと結婚したのかわからないレベルで名家だったな、母さんの実家……!

 笑みが怖すぎるよ、母さん……!


「そのご縁のおかげで、イギリスの方と幾ばくかの交流を重ねているのです。うふふ、話題が脇にそれました。さて、わたくしは生まれてこのかた、“のですが……」


 これは本気だ。俺はおそるおそる、ミラー越しに母さんの目をのぞき込む。

 うわぁ……うすうす気づいてたけど目が笑ってない。いつも通りの声と表情に見せつつ、ここまで目が笑ってないの、完全にリリアンネのこと探ってきてるだろ……!


「そうですね。私としても、『親は珍しい名前を付けたものだ』と思っております」


 しかし、ここでひるまないリリアンネもさるものだ。

 顔色一つ変えず、息一つ乱さずに返す。


 さて、母さんはどう出る……?


「なるほど、そうでしたか。これは、とんだ失礼をいたしました」


 意外なことに、あっさりと引いた。けど、相変わらず笑ってない目からは、間違いなく探りを入れるという意思がある。

 一方のリリアンネもまた、笑みを浮かべて「いえいえ」と言っている。


 ……だが、二人の間の空間がバチバチと音を立てている様子が、俺には見えてしまった。

 じょ、女性ってこえぇ……! 父さんも、ハンドル握る手が小刻みに震えてるし……すっげぇこえぇ!


「ちょ、ちょっと休憩にしよう……!」




 父さんは震え気味の声で、近くのパーキングエリアに入るのを提案したのであった。

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