第39話 帰省初日の朝

 それからは、今まで通りだった。いや、仮とはいえ恋人としては、昨日は初日だったな。

 けど、やることはまだ変わってない。一緒に食事をとり、やや手狭なお風呂に二人で入る。……ただ混浴しただけだぞ? 何もエロいことはなかった。さすがに現実とエロゲーは違うし、つーかまだ踏ん切りもついてないからな、できるわけないだろうそんなこと!


 ……こほん。

 とにかくいろいろあって、今は朝8時55分だ。もうじき父さんが、車で迎えに来てくれる。


 身の回りの整理や戸締りをしっかりして、俺は部屋を出る。と、気になることが一つ。


「リリアンネ」

「なにー?」

「そっちの部屋はいいのか? いろいろあるけど」

「んー……もう昨日の時点で、整えてるかな。今入っても、何もないように見えるよ。それに防犯の……侵入者への対策も済ませてるし」


 準備は万端だった。ま、万一何かあっても、リリアンネなら……って待て。

 自宅からはけっこう――100kmくらい――離れてるぞ? 行けるもんなのか?


「うん。私にとって、そのくらいの距離は家で一歩あるくのと変わらないから」

「……」


 どんな理屈でそうなるんだか。ともあれ、リリアンネの部屋の防犯に関しては問題ないだろう。

 懸念けねん事項は取り払った。あとは帰省中、家も体も無事であることを祈るだけである。


 少しして、目の前に車が止まった。見知った車だ。


「よお!」

「久しぶりね、勇太」

「父さん、母さん!」


 去年と同じように、父さんと母さんが揃ってやってきた。

 ここからだとよく見えないけど、父さんは一瞬、ボーッとしたような表情を浮かべた。すぐに立ち直ったけど。


「ほら、何ボサっとしてる? 積もる話もあんだろうけどよ、まず乗れ!」

「はいよ! ほら、リリアンネ、先に」

「んっ、お邪魔しまーす」


 リリアンネが先に入って、シートベルトを締める。


 4人乗りだがそこそこ大きめの車だし、リリアンネの背丈なら問題なく座れた。

 俺も続いて、荷物をいったん車に置いてから入り、ドアを閉めてシートベルトを留める。

 それを確かめた父さんは、すぐに車を走らせた。


「さーて、家までちょっくら走るか。運転しながらで悪いが、初めまして、彼女さん」

「初めまして。リリアンネと申します」

「俺は士道吉識よしき。そこにいる勇太の父親だ。よろしく」

「その妻の、初音はつねでございます」


 ふむふむ、第一印象のラインは突破……と。いや待て父さん、さっきからミラー越しにリリアンネの胸ばっか見んな。気持ちはわかるが俺の彼女だし、何より母さんが怒るぞ。怒ったときの母さんがすげえ怖いの、あんた覚えてるだろ。怒鳴らないくせに、かなり痛いところばかりズバズバ突いてくるんだから。しかも笑顔で。


 あー、ほら早速社内の温度下がってるぞ。いい加減にやめとけ、父さん。

 ……よし、父さんは運転に集中しだしたな。ひと安心、ひと安心。




 近くのインターチェンジから高速に乗り上げた様子を見て、俺は気持ちを新たにした。

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