第31話 デート当日、その2

 30分ほど歩いて、巨大ショッピングモールに到着した。


 歩いている途中は、どこに行くかを礼香と話し合っていた。服飾店、スイーツショップ、書店……女の子らしい店から大人びた店まで、何でもありだ。

 無論、俺もついでに何か買っていく。そのために、財布には多めにお金を入れていた。


 とはいえ、基本的には行き当たりばったりだ。ガチガチに決めすぎてもつまらないからな。


 開店時間から数分経ったタイミングで、俺たちはモールに足を踏み入れた。


     ~~~


「さて……どこから行く?」

「んーとね」


 礼香が主役の買い物だ。俺はあくまで隣にいるだけで、特に求められない限りは主張しない。


「こっち来て」

「あいよ」


 最初に来たのは、アパレルショップだ。

 正直俺にとって興味はまったくないが、見たことくらいはある。大手というか、著名なチェーン店なんだろうな。


 ガッツリ女性用の服ばかりだ。間違っても、俺一人で踏み入れちゃならないな。

 ただ、木目調の内装はいいセンスをしている。窓際にあって太陽光を取り入れるのも、なかなかだ。いかにも礼香の好みそうな場所である。


 礼香はある程度迷いつつも、服を3, 4着手に取って試着室へ向かう。


「勇太、似合ってるかどうか言って」

「はいよ」


 男としての視点も欲しいんだろう。エロゲー漬けでだいぶズレた気のする俺の感性だが、ま、ものは試しだ。


「まず、これね」


 1着目。ベージュのタートルニットと、フレアスカート。

 大人びた雰囲気の礼香に、ぴったりマッチしている。落ち着いた色合いが、違和感なく礼香に寄り添っている、そんな感じだ。


「いいな。似合ってるぞ」

「ほんと? やった! ……それじゃ、ちょっと待ってて」


 サッとカーテンを閉め、2着目を待つ。

 少し時間が経ったら、礼香が別の服を着ていた。


 2着目、オレンジのロングスカート。

 タートルニットはそのままだ。


 オレンジの色味いろみはそこまで濃くないのだが、ベージュと比べれば強く見える。

 正直、悪くはないが……似合う度合いで言えば、さっきのが上だな。


「まぁ、似合ってるな。ただ、どちらかというと……さっきのがいい」

「そっか。……それじゃ、次いくね。次で最後」


 ちょっと残念そうだったな。

 だが、俺の好みは、さっきのがよりぴったり当てはまる。


 さて、最後か。どんな感じなんだろうな?

 なんて思ってたら、すぐにコーデが見られた。


「これ……どうかな?」


 さあ、最後の3着目。

 フリル付きのカーディガンに、ロングスカート。色は両方とも白。礼香、スカート好きだな。


 ……待て。すんごい、似合ってるんだけど。


「勇太?」


 そうだ。返事、返事をしないと。

 ただ、うまく声が出ない。あまりに魅力的で、何も声を出せない。


「……すごい、似合ってる」


 気の遠くなる時間を経てから、ようやく俺は感想を伝えた。

 時計を見たら、わずか10秒と経っていなかったが。


「ほんと?」

「ホントだ。持ってきた服の中で、一番似合ってるよ」


 お世辞抜きに、一番魅力的だった。

 礼香はしばし戸惑っていたようにも、ほうけていたようにも見えたが、やがて答える。


「……えへへ、ありがと!」


 リリアンネに負けず劣らずの輝いた笑顔で、俺に微笑んだ。


「じゃ、決まりね! これにする!」

「はいよ。レジ終わったら持つぜ」


 俺たちは買わない服を元に戻してから、レジへ向かった。


     ***


「勇太のおかげでいい服が買えた。ありがと」

「あいよ、どういたしまして。そんじゃ、次はどこ行くかな?」

「ちょっと散歩して、それからお昼食べようよ」

「いいな」




 俺たちはしばし、モール内をぶらついていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る