第32話 デート当日、その3
「可愛かったな、にゃんこ」
ペットモールを抜けて、俺たちはゆっくり歩きながら談笑していた。
「ね。飼ってみたいなぁ」
「面倒見られんのか?」
「見るよー。それに知ってるでしょ? 私、にゃんこと一緒にいたの」
「あー……」
言われてみれば、だ。思い出した。
礼香は13のときまで、猫を飼っていたんだったな。たしか……サバトラのあの子は20歳という長寿で、老衰だった。
今でもペットのお墓参りをしているそうな。律儀なことだ。
「ま、いざとなれば手伝うか。ちょっと離れてるが、同じ幕浪市内だし駆けつけるぜ」
「ありがと……おっと」
礼香のお腹が鳴る。
「元気な証拠だ……おっと、俺も」
遅れて俺のお腹も鳴った。
「ご飯、食べに行く?」
ちょっと早いが、昼ご飯もいいだろう。近くにはフードコートもある。
「行くか」
「うん」
俺は礼香の手を引くと、フードコートに入った。
~~~
「どこにする?」
席とお店を物色する礼香。
だが、俺の視界に嫌なものが入った。
「こんな寒いのにご苦労なこって……」
チャラい男、三人組だ。ああいう手合いに礼香がナンパされたのは、一度や二度じゃあない。
近くで見てた俺としては、自然と嫌な気分になる。
「勇太?」
おっと、いけない。心の声が漏れていたな。
幸い、あの三人組に気が付いた様子はない。
「礼香、フードコートはよそう。近くにレストランがある。そっちにするぞ」
「え? あ、うん……」
少し強めに手を引くと、礼香はすんなりついてきてくれた。
ただの気のせいかもしれないが、出来れば気のせいで済ませたいからな。
そういうわけで、ちょっと強引だがレストランで昼食を取ることになった。
昼にしてはだいぶ早い時間に来たので、モールの規模のわりに人数は少ない。当然席もガラガラなので、なるべく窓から遠い場所を選んだ。
「悪いな、強引で」
「う、ううん……大丈夫。けど、どうして急に?」
礼香、やっぱりちょっと不安そうだ。ま、当然だよな。
しゃーないので、ワケを話してやることにする。
「あのな。チャラい男どもを見つけたんだよ。今までにお前をナンパしてきたような奴らな」
「あー…………いたね。あんまり好みじゃない人たち」
思い出したか。それとも、俺が見たのと同じ奴らを見つけたのか。
ま、どっちでもいいや。
「今までの経験から、嫌な予感がしたんだよ。お前、ナンパされるの嫌だろ?」
「うん。一方的に話しかけられて迷惑かな。全然楽しくないから、時間の無駄だし」
全否定だ。だが、当然だ。俺に対する好意は別にあるとして、礼香はそういう手合いを嫌っているからな。
それに俺も俺で、エロゲーに出てくるチャラい男は許せん。ヒロインとイチャつくのには不要な存在だ。一言も
「だよな。ま、そんな連中を見つけたから、面倒が起こる前に場所を変えたってワケだ」
「そっか。ありがと」
「気にすんな。それより、何にすっかなー……」
俺たちはメニュー表をめくり、品定めを始めた。
***
「ごちそうさまでした!」
店員に挨拶を告げてから、俺たちはレストランを出る。
イタリアンな食事は、味覚も胃袋も満足させるに足る代物だった。
と、前方で揉め事が起きていた。
「嫌です! やめてください!」
「いいじゃねーか、俺たちと遊ぼうぜぇ?」
「嫌だっつってんだろ!」
女性二人組に、さっきのチャラい男三人組が絡んでるな。案の定だった。
これは加勢すべきか、迷う。3次元の女性に興味はないが、事件となれば話は別だ。
「勇太?」
「下がってろ。スマホ出して、警察に通報する用意しとけ」
「う、うん」
俺は状況を注視しつつ、いつでも向かえるようにする。万一暴力があった場合、あの数と体格では不利だろう。
「しつけーんだよ! とっととどっか行け!」
「チッ……」
三人組は、すごすごと引き下がっていった。出る幕も無かったが、正直それで何よりだと思ってる。つーか豪快そうな女性、度胸あるな……。
「礼香、もう通報しなくてもいいぞ」
通報しようとしていた礼香を制止して、落ち着かせる。俺はもう少し、女性二人組を見守ることにした。
「はい、あーん❤」
「ん、美味し❤」
ふむふむ、百合ップルというものか。尊いものだ。
そんな二人にナンパするとは、あのクソ野郎どもめ。
ともあれ、無事で何よりだ。
さて、そろそろ俺たちも、俺たちのやりたいようにデートするか。
「書店行くぞ。ちょっと遠回りになるが」
「うん。行こう」
ナンパ野郎どもとは別の方向にある下りエスカレーターへ向かいつつ、俺たちは書店を目指すことにした。
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