第29話 デート前日

 冬休み前最後の授業を終えた俺は、すぐさま家に帰って服のチェックを始めていた。

 俺個人としては授業が終わった後でもよかったのだが、礼香とすり合わせたところ、明日に回してほしいと頼まれたのである。


 いずれにせよ、用事があるのであれば仕方がない。

 今日は帰って、明日向かうデートの準備だ。


 相変わらず、俺の気持ちは変わらない。リリアンネと、イチャつきたい。

 だが、それは明日のデートが終わってからだ。


 リリアンネもそれを察してくれているのか、今日は会話は控えめだ。

 ただ、食事のときは違ったが。


「ねーねー、ゆーた。どこに行くの?」

「ああ……近くにあるデカいショッピングモールかな」

「なるほどね。いいんじゃない? 何となく、デートには似合ってる気がするし」

「そっか」


 割と興味しんしんな様子だ。声音がいつもより明るい。


「うーん、どーしよっかなー?」

「どうする……って、どんな意味だ?」

「ゆーたとれーかのデートについて行こっかな、って」

「やめろ!」


 脊髄反射で止めた。リリアンネがついてきたら、何が起こるかまったくわからん。


「だいじょうぶだって、姿は隠すから」

「それでもだ! お前絶対声だけ聞こえるようにして口出すだろ!」

「えへへ、バレたか」

「バレバレだわ!」

「私は別に、ゆーたがれーかとくっついてもいいんだけどなー」


 うーん、まだ言うかリリアンネ。


「そりゃあね? いざとなったら、アークティアまで行けばいいだけだし」

「一夫多妻制なのか?」


 今までに習った知識にはないぞ?


「ううん。“何でもあり”なの」

「何でもあり?」

「そう。一夫一妻、一夫多妻、一妻多夫、多夫多妻、何でも」


 わけのわからない言葉が混ざっているぞ。何だ、“多夫多妻”って?


「そのまんまの意味だよ? 複数人の男性と、これまた複数人の女性が寄り集まって、家庭……みたいなものを作るの」

「それって、ちょっとした組織なんじゃ?」

「ううん。愛情関係がある場合もあるからね。それに婚姻関係としても、ちゃんと認められてるから」

「すげえな……」


 どうなってんだ、アークティア人。

 いや、たかだか十年程度学んだだけだ、謎はあって当然だ。


「とはいっても、だいたい一夫一妻か、たまに一夫多妻があるくらいだけどね。多夫多妻は珍しいよ」

「そこは俺たち地球人と同じなんだな……」

「うん。とはいえ、アークティア人は誰に対しても愛情深いから、実質ほし単位で多夫多妻なのかもだけどね」

「うわぁ……」


 そういえばそうだった。俺たち地球人の常識、通用しないな……。


「そういうわけだから、ゆーた。いざとなったら、れーか連れてきな?」

「……考えとく」


 だが、正直、思ってることがある。


「なに? いいよ。言ってみて」

「なら言うぞ。正直、好きにもなっていない相手と付き合うのは、お互いにとって苦痛だと思ってる」

「愛があるのに?」


 愛がある、か。

 言いたいことはわかる。アークティア人からすれば、逆に俺たち地球人の考えは、そこまで浸透していないのだろう。


「あるからこそ、だ。そして受け取れないとわかってるからこそ、付き合えない。理屈じゃない、どうしてもできないんだ」

「そっか」


 拍子抜けするくらい、あっさりと納得してくれた。

 だいたいのことは肯定してくれるからな、リリアンネ。


「けど、無下にするのはなしだよ、ゆーた。ゆーたがれーかを好きじゃないのは、もうわかってるけど」

「ああ。断るにしても、断り方ってもんがあるからな」


 それはきっちりやる。親しき仲にも礼儀あり、だ。


「なら、だいじょうぶかな。それじゃ、ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 俺は食器を洗い、片づける。




 そして、しばし休んで入浴し、寝るギリギリまでデートの準備をしつつ、横になったのであった。

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