第28話 フェアじゃない
「それで、ゆーたはれーかとデートするんだよね?」
「ああ」
その後、俺はリリアンネに向けて、あらためて下した結論を話しだす。
「お前の言われた通りになったよ。『覚悟だけはしときなよ』……か」
「でしょ? もしかしたら、デートした後に告白されるかもよ?」
「たぶん……な」
心を見抜くリリアンネの言葉だ、今さら疑うつもりもない。
最初に礼香の好意を告げられた時点で、覚悟はしていた。
……だが、正直、俺は恋人としては礼香を拒絶するだろう。
ずっと幼馴染としてしか見ていないし、これからもそう見ると思っている。どういうわけか、あいつを異性として見られないんだ。
本人の名誉のために言っておくと、あいつはモテる。かなりモテる。今までに何度となく男子たちから告白を受けては、そのことごとくを断っているくらいだ。この目で見てきたから、わかる。
それでもだ。俺は“幼馴染”として、あいつを認識している。これはもう、変えられない。
そして、俺はリリアンネという目の前の女性が、好きだ。好きになってしまった。
リリーと同じ見た目で、けど別の存在である彼女に、すっかり惚れてしまったんだ。
この気持ちは揺らがないだろう。どうしようもなく、好きだ。
いっそ、今この場で告白して――
「待ちなよ、ゆーた」
へ?
「ゆーたが私に好意を抱いているのは知ってる。私と、恋人どうしですること何でもしてみたい欲求があるのも、とっくにわかってる。それでもね、ゆーた」
なぜか、リリアンネは俺が告白しようとするのを止めてきた。
どういうことだ?
「今はまだ、聞けないかな。ちょっと、礼香に対してフェアじゃないから」
「フェア……じゃない?」
「うん。ねえ、ゆーた。私に言いたいことはあるだろうけどさ、それは礼香とデートしてからでも間に合うと思うんだ」
何を言っているんだろうか……? リリアンネの言いたいことが、わからない。
「戸惑わせちゃったみたいだね。私に告白するのは、礼香のデートをしてからお願いしたいな」
「待て……。リリアンネ、それでいいのか?」
「ん?」
「俺がもし心変わりしたら、好意を失うかもしれないだろ! みすみすそれを――」
何を慌てているんだ、俺は。
俺が誰を好きになっても、それは俺の勝手なはずなのに。
そんな俺をよそに、リリアンネはきっぱりと、俺に告げた。
「そうなったら、それでいいよ。ゆーたが誰を好きになっても、私は気にしない。私はゆーたが大好きだけど、だからこそゆーたを無理やり振り向かせようとするつもりはないかな」
「……そうか」
俺には、わからない。
リリアンネはなぜ、ここまで肯定的なのだろうか。人間だったら持つであろう恐れを、どうして抱かないのだろうか。アークティア人だからと言ってしまえばそれまでなのだが、ここまで考えが、そして性格が違えば、違和感を覚えざるをえない。不気味の谷とは違うだろうが……似たような感覚だ。
……それでも。それでも行かなきゃ告白させてくれないってんなら、行くしかない。
確かに、一度礼香の恋心と向き合ってからでも遅くはないな。
度量が広い……って言葉で片付く話じゃない。
けど、それがリリアンネの望みならやってやるさ。
俺は決意を新たにしつつ、礼香にメッセージを送った。
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