第27話 下した決断

 それからは、礼香にさよならを伝えてお開きとした。

 罪悪感に包まれながら、家へと帰る。


 本当に、あの答えでよかったのだろうか。俺は、大事な人を裏切ってはいないだろうか。

 けど、今いくら考えたところで、一度言った言葉は取り消せない。


 冷たい空気が、俺を咎めているみたいだ。

 空とは真逆に曇りすぎた心を抱えながら、俺は強引に家まで足を進めた。


     ***


「ただいま……」


 俺の心は、重く沈んでいた。


「おかえりー、ゆーた」


 そんな俺を、リリアンネはあたたかく出迎えてくれる。まったく、こんなときでも、相変わらず明るいんだな。ありがたいぜ。


 ……けど、合わせる顔はないな。


「待ってろ。すぐに夕食を作る」

「ゆーた、顔色悪いよ? どーしたの?」

「何でもない」


 気にしてくるリリアンネを無視して、俺は夕食を作り出した。

 今日はハンバーグにしてやるつもりだ。


 うがい手洗いを済ませると、俺は意気揚々と作り出した。




「……ふぅ」


 何とか調理工程を終えた。

 今晩は、レタスとブロッコリーのサラダ、そしてハンバーグ、あとは米と味噌汁だ。……リリアンネの分は、だが。


 俺か? 俺のはレタスだけのサラダと米、味噌汁だけだ。それもごく少ない量だ。まったく食べないわけじゃあないが、それにしても食欲がなかった。


「さて、できたぞ。リリアンネの分だ」

「わーい、やったー! ……って、ゆーた? やけに量が少ないよ?」

「今日は、食べる気分じゃないからな。減らした」


 やや心配そうなリリアンネをよそに、俺は先にいただきますを言う。ちょっとばかり先に、食べ始めた。


 会話もなく、明るい雰囲気もなく。ただ淡々と、咀嚼そしゃくする音だけがリビングに響く。今の俺の心を表しているようで、さらに影を落としてきた。


 嫌な気分だ。リリアンネ以外の何から何までが、俺を咎めてくるような感じだ。


「……ごちそうさま」


 何とか食べ終えると、逃げるように自室にこもった。

 食器洗いもあるが、ちょっとやってられる気分じゃない。この後まとめて洗うか、最悪明日に丸ごと食洗機だ。


 ……何もしたくない。寝たら健康上まずいけど、本当なら今すぐ寝たいくらいだ。

 何もしていないのは苦痛だって、思わなかった。かといってエロゲーをする気持ちにもなれない。今は心が散りまくっているから、楽しいとも思えなくなってしまう。


 何かしようと、しかし結局何をするでもなく、ただ時間が経つ。

 やけになって俺が寝ようとしたとき、カチャカチャと陶器が軽くぶつかる音が何度も聞こえた。


 もしかして、皿洗いの音か?

 俺はそっと部屋を出て、キッチンを覗き見る。


 ――そこでは、リリアンネが黙々と皿を洗っていた。

 よく見ると、俺の分もだ。俺がやってないから、代わりに洗ってくれているのか。


 ……いてもたってもいられない。


「リリアンネ。手伝うぞ」

「ん、ゆーた。ありがと。それじゃ、一緒にやろっか」

「ああ」


 俺たちは二人がかりで、皿洗いと片づけを終えた。


     ~~~


「終わったな」

「ね。それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 げ、やっぱりか。

 まあ客観的に見てみれば、俺の様子は違って見えたんだろうな。


「なんだ?」

「思いっきり、避けてたよね? 私のこと」

「ん、ああ」

「なんでか、教えてほしいな」


 ふぅ、やっぱりか。

 たぶん黙っていても、心に浮かんで読まれるからな。


 俺は観念して、切り出した。


「デートに誘われた。礼香に」

「ふんふん。それで、行くの?」

「……ああ」


 自白を引き出された気分だ。ああ、言っちまった――


「んー、よかったじゃん」

「………………へ?」


 えっ、あれっ? 完全に、想像していた答えと違うぞ。

 リリアンネが俺を好きな上に、俺も内心でとはいえリリアンネに好意を抱いてるんだから、もうちょっと、何というか――


「私は怒らないよ?」

「…………あっ」


 言われて思い出した。そうだ、アークティア人は怒らないんだった。

 けど、怒らないにせよ、何か咎められることはあるはず……。


「ないよ。まだゆーたと恋人になってないし。というか、なってたとしても咎めないって」

「へ!?」


 まさかのハーレム容認かよ!?


「うん。ゆーたが好きなら、別に恋人は何人いても気にしないよ」

「待て待て待て待て!」


 日本の法律が、というか俺の良心が許さねえんだけどそれ! 確かにハーレムもののエロゲーも遊んだけどさ、あれはエロゲーだからこそでだな!?


「まあまあ落ち着いて、ゆーた」

「落ち着けるか!」


 などと叫んだ瞬間、おっぱいに顔を埋められる。


「もがが……苦しい」

「落ち着いたら離すねー」


 苦しいやら、嬉しいやら。




 結局、数分かけてようやく俺は落ち着きを取り戻した。

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