第6話 夜、ベッドで
「えぇっ!?」
落ち着いたと思ったらこれだ。どうやら彼女は、自覚してか無自覚か、俺を戸惑わせる性質の持ち主らしい。
俺はしどろもどろになりながらも、答えた。
「ダメというか……。あの、その……」
出会ったばかりだというのに、同じベッドで一夜を共にする。どう考えてもアレな展開な上に、後で誰かに知られてもまずい。
理性が全力で止めにかかっている。
だが本能は、むしろ「やれ」と言わんばかりだ。
実際に……その、行為に及ぶことはないとしても、一緒に寝てぬくもりを感じたい。
さっき抱擁してもらったのがだいぶ効いているようだ。
などと自問自答しつつしどろもどろしているうちに、リリアンネがたたみかけてくる。
「わかってるよ。ゆーたは恥ずかしがったり、照れてるだけだよね」
「うっ……」
外れている、とは言いがたい。
二人で寝るにはやや狭いベッドだが、それでもお互い密着したまま寝てみたい気持ちも確かにあった。
「ならやってみようよ」
「ぐっ、いや、だからそれは……!」
リリアンネが一言話しかけるたびに、俺の理性はぐらつきそうになる。
だがそんなことはお構いなしと言わんばかりに、トドメの一言がきた。
「……私は、あなたならいいよ?」
俺の中で、何かが切れる音がした。
~~~
結局、リリアンネに押し切られてしまい、俺はリリアンネを抱き枕よろしく抱きしめていた。
一線だけは最後の理性を振り絞って超えていないが、正直言って、いつ手を出してもおかしくはない。俺が臆病なのもあるだろうが……。
「うふふ、ゆーた。気持ちいい?」
「あ、ああ……」
頼む話しかけるな。どうにかなっちまいそうだ。というかしょっぴかれるようなことをしでかしそうなんだ、リリアンネ。
もうすでにだいぶまずいけど、その上に……おっぱいが当たってるとあれば、ドキドキしてしまっている。
「ふふ、ゆーたの心臓がドキドキする感じ、私にも伝わってる」
必死に理性を働かせている俺の気持ちを読んでいるだろうにもかかわらず、リリアンネは俺に話しかけてくる。
リリーの姿をしているのも当然あるが、女性の柔らかい感触に加えて、うまく形容できない、女性特有のいい匂い。女性にそこまで免疫のない俺には、てきめんに理性をそいでくれる。
「ねえ、ゆーた」
「は、はい」
心臓の鼓動が早まりっぱなしだ。ちょっと呼びかけられるだけでも、カチンコチンに緊張してしまう。
「言いやすい呼び方や話し方でいいよ。礼儀は大事だけど、私はちょっと遠慮したいな。直接会った時間はまだ短いけど、私はもっとゆーたと打ち解けて、くだけて話したい」
見透かされていた。
正直、タメ口が話しやすいと思っていたのはその通りだったが、まさかリリアンネから口にしてくれるとは。
「分かり……いや、分かった。リリアンネ」
「そうそう、そんな感じだよゆーた。一歩、仲良くなったね」
「そうか……」
いつの間にか仲良くなることになっていた。
というか……待て。明日になったら、俺の家からは出ていくんじゃ?
「それはその通りだね、ゆーた。ゆーたに頼るのは、明日の朝まで」
「だよな?」
他ならぬリリアンネ自身が言ったことだ。
さて……どうしたものだろうか。まだリリアンネについてはさっぱり分からないけど、少なくとも異星人としては興味がある。勝手な話かもしれないけど、しばらく俺の近くにいてほしいと思っている。
何なら、無理やりにでも頼み込んで、俺の家にいてもらうか……?
「それはしないよ。残念だけど、私はもう自分の家を持ってるから」
内心で肩を落とす。そうだよな、やっぱり「一晩だけ」と言うのは変わらないからな。しれっとすごいことが聞こえたけど、とにかく俺のワガママが叶わない事実は受け入れないと。
「けど……多分ゆーたの願いは、叶うと思うよ?」
「へっ?」
どういう意味だろう。思わず間抜けな声を出してしまった。
「私に、そばにいてほしいんだよね?」
「あ、ああ……」
「なら、安心して。私は明日間違いなくゆーたの家を出るけど、そばにいるから」
「どういう意味なんだ、それ?」
「明日まで待って。今はお互い、抱きしめあって温かくなろ?」
そう言われても、俺は焦ってしまう。
けどリリアンネに答える気が無い以上、待つほかなかった。
結局、俺はいくらか理性と本能との狭間で抗っていたものの、最終的に疲れて眠ってしまった。
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