第5話 戸惑いと抱擁
「なっ……」
どういう意味だろうか。
俺が戸惑っていると、リリアンネは先に答えを言ってきた。
「そのままの意味だよ。今のゆーたはまだ私と出会ったばかりだから、聞いても分からない。ううん、頭でならわかるかもしれないけど、実感を持って理解することができないのかな」
「な……」
怒りというか、戸惑いというか。俺の心は、リリアンネと出会ったときとはまた違う焦燥を感じていた。
「今の言い方は無神経だったかな。ごめんね」
そんな動揺も、あっさり感じ取られてしまった。
リリアンネは一瞬申し訳なさそうにしたものの、すぐさま表情を引き締めて話を続ける。
「それを踏まえた上で言わせて。たぶんあなたは、異星人というものをまだよく分かっていないと思うの」
「それは……」
その通りだ。知識は頭に入っているし、どういう姿をするのかはテレビで見た。だが、逆に言えば、たったそれだけだ。
今の俺には、“実感”というものが極めて乏しかった。まだ本当か嘘かは分からないものの、仮にリリアンネが正真正銘の異星人だったとして……出会ってから、まだたったの数時間だ。
俺にはその程度の時間で、「実際に出会った」という実感を抱くなどできなかった。ましてや、昔から憧れていた異星人となれば。
ああ、どうして俺は、「一晩どころか、ずっと泊まってくれ」と言えなかったのか。
昔から憧れていた、異星人にしてエロゲーのメインヒロインである――厳密にはエロゲーのリリー本人じゃあないだろうけど――人が、わざわざ俺の部屋に泊まってくれると言ったのに。
いろいろな感情がないまぜになってしまう。
高校生の頃はあれほど異星人に憧れていたのに。
ああ、好きな人の前で感情がうまくまとまらない……って聞いたけど、その言葉の意味がようやく分かった。
今はダメだ。話せない。話そうとしても、支離滅裂になってしまう。
パニックを起こしそうになったそのとき、リリアンネはふわりと俺を抱きしめた。
「……なっ」
「大丈夫だよ。落ち着くまで、こうしているから。それとも、いったん私の上で激しく暴れて、無理やり落ち着く?」
「ちょ!?」
とんでもない爆弾発言が聞こえた。
いや、リリアンネは俺を落ち着けたいだけだろう。だが、今の発言はまずい。相手が憧れのリリーの姿をしているのも相まって、男性としての本能が暴走しかねない代物だ。
「いや……しばらくこうしててほしい」
「ふふっ、いいよ。好きなだけ抱きしめていてあげる」
冷静に考えれば、割とカオス極まりない状況だ。というかよく、抱きしめることを突っぱねなかったな俺。
ただ、本当にこれは助かった。人肌のぬくもりを感じたのが小さい頃以来なのもあって、自然と心が落ち着いてくる。
……時間が経つにつれて、だいぶ冷静さを取り戻してきた。
それにつれて、抱きしめ返したいと思ってしまう。
「あの……」
「どうしたの? ……そっか、いいよ」
俺の心を読んでくれたリリアンネが、先んじて許してくれた。今回ばかりは、心を読んでくれることに感謝しよう。
そっとリリアンネの背中に腕を回し、優しく抱きしめる。女性の体をこうやって抱きしめるなんて、母さんを除けば初だ。想像以上に柔らかい、けれど心地いい感触にまた少し戸惑う。……特に、おっぱいの感触に。
正直おっぱいが密着しているという事実だけでも性欲が湧き出すのだが、さすがにその始末は求めない。それをするには――する前提で考えるのもナンだが――早すぎる。
結局、自然な気持ちで離れるまで、しばし俺たちは抱きあっていた。
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それから、夕食を済ませて自由にくつろぎ――と言いつつも、結局エロゲーは遊べずじまいだったが――そして寝る時間を迎えたとき、問題は起こった。
「来客用の布団……っと」
「あ、遠慮するよー」
「そういうワケには……」
仮にも来客であるリリアンネを、固い床で寝かせるわけにはいかない。そう思っていた。このときは。
だが。相も変わらず、彼女は突拍子もなかったのである。
「あなたと同じベッドで寝たいの。ダメ……かな?」
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