第4話 同じ姿の理由

 それから俺はお風呂から上がり、部屋へ向かう。

 女性を一人にさせるのは何となく良心が咎めるものの、それでも確かめたいことがあった。


 エロゲー「シャインスター~星降る夜に出会った女の子は、宇宙人でした~」のパッケージを手に取ると、リリアンネに気づかれないようにのぞき込む。こんな不審者じみた行動を自宅で取っている現状に、俺は我がことながらげんなりしていた。


 とにかくリリアンネと、リリーの映ったパッケージを交互に見る。俺の脳が勝手に都合のいい補正をかけて、同一人物のように見せているだけかもしれないからだ。


 ……だが。


「何べん見ても同じだ……」


 顔、髪の色、おっぱいの大きさ。幸せな夢……いや新手の悪夢を見せられている気分だ。

 目の前にいる人間が、そのまま画面から飛び出してきた2次元のキャラ……というのは、憧れこそしていた。しかしいざ当事者になると、ここまでパニックになるとは思っちゃいなかったのである。


「うーん」


 と、リリアンネが伸びをしだした。バレる可能性があるのでここで切り上げ、である。

 パッケージを自室に戻すと、自然体を装って戻った。


「ただいま戻りました」

「お帰りー。私もお風呂、入っていい?」

「え、ええ……いや待てよ」


 流れでオーケーを出そうとして、固まる。

 女性用の着替えは一切持っていない。それでも下着……違う、肌着だ。それや家用シャツとズボンくらいはあるが、ブラジャーは無い。パンツも当然男性用だ。


 やむを得ない。納得してもらうか、あるいは諦めてもらうか。


「あの、すいません……」

「なにー?」

「女性用の替えの服とか持ってないんで、男性用ので我慢していただけますか?」


 申し訳なく俺が言うと、リリアンネはくすくす笑い出した。


「ふふ、そういうことで悩んでたんだ」

「え、あれ?」

「安心して。替えの服とかなら、あるから」

「えっ、えっ?」


 どういう意味だ? まるで分からない。

 などとあたふたしているうちに、リリアンネはお風呂に入ってしまったのであった。


     ~~~


 リリアンネが笑った理由が分かったのは、それから20分後である。

 お風呂から上がり脱衣所からも出たリリアンネは、さっきとはまるで違う、けどどこかで俺が見た覚えのある服装に変わっていた。


「その服……」

「うふふ、あなたの大好きな女の子が自分の家で着てたのと同じだよ?」

「何てこった!」


 俺は敬語も忘れて叫ぶ。

 この際、服の出どころはどうでも良くなってしまった。


「何だってそんなリリーと……エロゲーの女の子とおんなじなんだよ、なぁ!」

「なんでもなにも……あなたの好みの女の子に合わせてるんだよ?」

「なぜ! どうして!」

「好きだからに決まってるよ?」


 その一言を言われ、俺はハンマーで殴りつけられたようなショックを受けた。

 そうだ。どうしてかはさっぱりわからんものの、リリアンネは俺が大好きらしい。だからわざわざ、俺の好きなリリーの恰好をしているのだ。


 けど、やっぱり信じられない。そもそも――リリアンネからすれば違うかもしれないが――俺はリリアンネを知らない。そもそも生まれた星から違うのだ、会おうはずがない。

 異星人が認知されだしたのも10年ほど前。その間に、俺がリリアンネ含む異星人と出会った記憶はまったくない。


 なのに、なんだって……リリアンネは俺を、好きなのだろうか?


「あの……」

「んん? あなたを好きな理由?」


 しれっと心を読まれたが、それはどうでもいい。

 俺は答えが気になった。


 だが、返ってきた言葉は。




「うーん……教えてもいいかな。けど、今のあなたは多分聞いても、信じないと思うよ?」

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