第3話 落ち着けない自宅

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」


 どうにかこうにか、自宅に帰り着いた。

 しかしリリー……いやリリアンネという来客がいるからか、どうもまったく落ち着けない。


「安物ですけど、ハンガー貸すからこれにコートをかけて」

「ふふっ、ありがとー」


 ハンガーを渡して、あとは自分でかけさせる……っておい。ちょっと待て。


 なんだよあのおっぱいはッ!!

 さっきはコートでほとんど見えなかったけど、こんな大きかったのか!? まさか胸までリリーに合わせたのかよこいつリリアンネ……っ!

 内側に着こんでた服を押し出すような、前に突き出た球状のおっぱいが二つ。なんで俺は、こんなデカいのに気づかなかったんだ……!?


「すげぇな……」

「んん? どうしたの、ゆーた?」

「あ、いや、なんでもないです!」

「ふーん……」


 怪しまれたかもしれない。というか俺のおっぱい好きという性格もダダ漏れかもしれない。

 けど、とりあえずは何事もなくしのげた。


 特に課題も無かったので、どうしたものかと一瞬考え……決めた。


「何かあったかいものでも飲みますか?」

「んっ、そーする。何でもいいよ?」

「何でも……? うーん……」


 どうしたものかと思案していると、インスタントコーヒーの缶が目に映った。


「インスタントコーヒーでもどうでしょう?」

「いいよー。いただくー」


 相変わらずの軽い調子だ。

 とはいえ、さほどの手間はかからない。カップに粉末を入れて、電気ケトルに入れたお湯を注ぐだけだ。


 ちゃっかり自分のぶんも作りつつ、俺はコーヒー入りカップをリリアンネに渡す。


「できました。大した手間もかけてないですが、どうぞ」

「ありがとー。ん、おいしー」


 ほんわかと笑みを浮かべるリリアンネ。インスタントではあるものの、満足してくれるのは悪い気はしない。

 そんな笑顔を眺めつつ、俺もテーブルに座ってからコーヒーを口に含む。ん、美味いな。ちょっといいものを買って正解だった。


 しばしコーヒーの味を楽しんでいる俺だったが、いつの間にか視線はリリアンネの胸に移っていた。


「うーん……」


 何度見ても、やっぱり大きい。

 今は冬だからいいようなものの……いや冬だとしても、ボディラインの出る服ならキケンだ。

 おっぱい星人のケがある俺は元より、男女問わず注目を集めてしまう。


 だが、そんな服を着ている姿も見てみたい――そう思った、そのとき。


「うわっち!?」


 やってしまった。ボーッとしすぎて、コーヒー入りのカップを落とした。

 幸い俺にはかかっていないものの、テーブルがコーヒーまみれだ。


「大丈夫?」

「ええ。けど、やっちまったなこりゃ……」


 早く片付けないとシミになる。俺はタオルを取ろうとして――またも驚いてしまう。


「はい、タオル」

「えっ?」


 俺の行動を読んでいたかのように、リリアンネがタオルを手渡してきた。


「拭かないの? それ」

「え、ええ……」


 俺が取るよりも先に、リリアンネがタオルを取っていた。音に気づいて慌てて立った、という気配はまったくなかった。

 単にリリアンネの動きが早いだけなのかもしれないが、それでもタオルを取ってくるとは思わなかったのである。


 ともあれ、今は拭かないとな。

 ささっと綺麗にしてから、タオルを洗濯機に放り込んだ。


「どうしたものかな……」


 ふと見れば、わずかに俺の服にもコーヒーがかかっていた。普段ならシミ抜きするところだが、どうもそんな気分じゃない。


「ちょっとお風呂入ってきます」

「はーい」


 ……これじゃ逆だ。家主は俺なのに、なぜか俺がリリアンネに気を遣ってしまっている。

 だが一人になって、冷静に考える時間が得られたのは幸いだった。突然の出来事が立て続けに起こって、頭の整理が今でも追い付いていない。異星人、ギャルゲーのヒロインそのまんまな姿、家へのお持ち帰り押しかけ気味な招待……凄まじい情報量だ。


 とにかく一息つこう。服を脱いで洗濯機に放り込むと、シャワーを浴びて入浴した。


「ふぅ……これからどうしたものかな。たった一晩だとわかっていても、そこまで心がもつかわかんねぇし……」


 よくよく思い出せば、まだ昼である。

 だというのに、俺は講義を5つフルで受けた以上の疲れを感じていた。


「ま、人柄は良さそうだったし……案外、何とかなるかもしれねぇな」




 しばしボーッとしつつ、少し先のことを考えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る