3.

 ヴァールの仏頂面を、不幸や苦悩の表れだと思ったのか。

「お前も名前をもらったらどうだ? スッキリして、ほんわかして、うわーっ! となるぞ」

 ビルカはニコニコと笑いヴァールを見上げた。

「俺は――」

 そんなものいらないと言おうとしたのを押しのけて、アルナーサフがビルカの前に立った。

「そやつにはすでに名前があるのじゃよ」

 余計なことを言うのだろうと思ったが抵抗はしなかった。したところで止めはしないだろうし、嫌がってみせれば面白がってさらに余計なことをつけ足すかもしれない。

 ヴァールは聞こえていないふりをして、一足早く山道を下り始めた。

 ビルカはヴァールをの背中を気にしながらも、アルナーサフの言うことが気になって、歩き出せずにいる。

「何という名だ」

 好奇心に負けたビルカに、アルナーサフはにんまり笑って言った。

「ヴァールじゃ」

「ヴァールか。それならさっきカムラに教えてもらったぞ。ウマイものを作る名前だ」

「ただのヴァールではない。ヴァール=ハイムヴェー」

「長いな。ワタシのとはなんかちがうな」

「そうじゃよ。ヴァール=ハイムヴェー。戻ることも進むこともやめた、世迷い人の名前じゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る