51「やっぱり嫌な話のようです」②




「ねえねえ、ちょっと…………」


 綾音がサムを探して執務室に入ると、言葉を失った。


「あ、あんたら」


 目の前にはサムを椅子に拘束しようと奮闘するジョナサンの姿があった。


「……シャルロッテが生まれたばかりだっていうのにお盛んね。一時間後にまた来るわ」

「綾音さん、たすけてぇええええええええええええええええ!」

「綾音殿、誤解だぁああああああああああああああああああ!」


 誤解をした綾音がそっと扉を閉めようとするが、サムの悲鳴が響き、ジョナサンが扉を掴んで誤解を主張する。


「……じゃあ、何しているの?」

「サムにとって、いや、父親にとっての試練が始まるのです」

「はい?」

「シャルロッテはまだ嫁に行かせねえかぁらぁああああああああああああああ!」


 サムの叫びと、執務机に積まれた書類を見て綾音は察した。


「あら、早いわね。もう婚約の話が来ているのね」

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

「で、この調子だから椅子にくくりつけて無理やり話をしようとした、と」

「ご理解いただけて何よりです。サムの娘ですからね、私に決定権はないのですよ。助言はしますし、こうやって望まぬ窓口になることもしましょう。できる限り断ることもしています。しかし、限界があるんです」

「どれどれ?」


 部屋の中に入った綾音は手に持っていた荷物をテーブルに置くと、書類の上にあった資料を手に取り開く。


「えっと、グレン侯爵のお孫さんね。確か、サミュエルのおばあさんの実家よね」

「――だから断れないのです」


 サムと縁を結びたい貴族、商人は多い。

 しかし、妻たちと絆が深く、割り込むことは難しい。

 ならば、自然と次に狙うのはサムの子供である。


「貴族は面倒よねぇ。それでサミュエルが頑なに相手を見ようとしないってことね」

「そういうことです」

「断っちゃえばいいじゃない」

「綾音さん、俺はね。シャルロッテを奪おうとする輩がどこのどいつか知ったらさ、全てを斬り裂くと思う」

「――ジョナサン、婚約話の書類を全て燃やしなさい。サミュエルの目はマジよ。絶対にやるわ、これ」


 ジョナサンが胃のあたりを抑えて青い顔をした。


「そもそも、なんでこいつらってシャルロッテが生まれたの知ってるのよ。お祝いの品まで届いているじゃない」

「メイドの中には、他家の子女も行儀見習いでいるからです」

「ふーん。ま、いずれシャルロッテが嫁に行く日は来るんでしょうから、生まれたばかりで未来を縛っちゃうのも私はどうかって思うんだけどね」

「さすが綾音さん! 素晴らしい! 人格者!」

「めっちゃ褒めるじゃない。もっと褒めてもいいのよ」


 味方が増えたことを理解したサムが綾音を誉めまくる。

 ジョナサンはやれやれ、と肩をすくめた。


「一応、目を通してもらって、サムに祝いの品のお礼と婚約に関しては時間を欲しいとやんわりと断る手紙を書いてもらおうと思っています。私もシャルロッテの未来を縛りたくはありませんので」

「じゃあ、いいじゃない。早く書きなさいよ、サム」

「嫌! そんな書類に目すら通したくない!」

「子供か! いや、子供か。ううん、この世界じゃ大人だし、子供も生まれたんだからしゃんとしなさいよ!」

「もっと言ってやってください、綾音殿」


 どうやらサムは頑なにシャルロッテと婚約云々の関係者を知りたくないようだ。

 綾音とジョナサンは苦笑するしかなかった。


「ところで、綾音殿。そちらに荷物は?」

「あー、これね。サムに、というかシャルロッテによ」

「まーたー、婚約の申し込みなの!?」

「違うわよ。純粋なお祝いよ」


 そう言って、綾音はサムの目の前に大きな箱を移動させる。


「純粋なお祝いだけに、受け取っていいのか悩んじゃうんだけどね」

「えっと、どなたから?」

「愛と戦いの女神ヴァルレインからよ」


 次の瞬間、ジョナサンが胃を抑えて力なく椅子に座った。






 〜〜あとがき〜〜

 ヴァルレイン様からは、丁寧なお祝いのお手紙と一緒に祝いの品が届けられました!


 ★コミカライズ最新話(第6話―②)が先読み公開となりました!!

 それに伴い、第5話―②が無料公開になりました(第2話の①と②、第3話―①と②、第4話―①、②、第5話―①は待てば無料、もしくは無料チケットでお読みいただけます)ので、ぜひぜひお読みいただけますようお願いいたします!


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 コミカライズ版は書籍版と展開など違う点もございます。コミカライズとしてとても読みやすくなっておりますので、楽しんでいただけますと嬉しいです!

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 何卒よろしくお願いいたします!

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