76「最悪の精神攻撃です」③






「ば、馬鹿な……私の幻惑を二度も破ったなんて……あんた何者なの!?」

「お前の脳内が何者だよ!? 幻の設定がおかしいんだって、もうちょっとマシな幻を見せてよ! ギュン子は安直でもわかるけどさ、ウル一郎とリゼ二郎ってなに!?」

「知らないわよ!」

「あんたが見せたんだろ!?」

「私は、簡単な設定をしただけで、細かい補足はあんたが無意識に勝手にやったのよ! あんたの知り合いなんて私が知るはずないじゃない!」


 サムは耳を疑った。

 動揺しながら、声を発する。


「えー、うそー」


 震える声を出すサムに、にんまりした顔の里奈がなぜか胸を張って言い放つ。


「あんたがどんな幻を見たのか知らないけど、ぜーんぶあんたの妄想の産物よ!」

「い、いやだぁ」

「あははははは! 私に文句言ってくれたけど、登場人物も、設定も、七割はあんたが無識に決めたのよ! 私のしたことはシチュエーションを決めただけ!」

「じゃあ、あんたのせいじゃねえか! 幻のベースを決めたくせに、なんで偉そうにしているんだよ!」

「知らないわよ! そういう能力なんだから!」

「――駄目だ、こいつを消さないと」


 サムは、抱えている憤りを全て穂村里奈にぶつけることにした。

 こいつがいなければ、意味のわからない幻を見ることはなかった。

 しかも、幻の細かい部分をサムが無意識に決めたという。

 信じているわけではない。

 だが、里奈の言葉が万が一本当だったとしたら、「聖ビンビン学園」や「ウル一郎」「リゼ二郎」などをサムの脳内が勝手に考えたことになる。


 ――そんな事実を認められない。

 ――ならば女ごと、なかったことにするしかない。


 サムは大きく息を吸う。

 目を瞑り、呼吸を整える。


「――許さん」

「はぁ?」

「異世界から勝手に召喚され、こちらの世界に来てしまったことには同情する」

「あ、ああ、うん」

「だが、俺はスカイ王国の宮廷魔法使いとして、スノーデン王国の勇者を見逃すことはできない」

「はぁ!? ちょっと、あんた、なに今までのことをなかったように話を進めているのよ!」

「ええいっ、悪党の言うことは聞かん!」


 サムは強引に話を遮ろうとする。

 だが、里奈も負けていない。

 このまま押し切られたら、敗北するのは自分だと理解しているのだろう。


 炎は通じず、幻惑は破られる。

 彼女はサムに対抗する手段がないのだ。


「わ、私を殺すというの!?」

「お前のような悪党を放置できない」

「ふ、ふざけんな! 私は、選ばれた勇者なのよ! それに、奴隷たちだってスノーデン王国が好きにしていいって言ったんだから! 犯罪奴隷だから殺してもいいって! だから魔法の実験」



「――全てを斬り裂く者」



 サムは里奈の言葉の途中で腕を一閃した。


(……ちゃんと悪党でよかった。まったく罪悪感がない)


 魔法の実験で人の命を奪うような屑が死のうと、誰も心を痛めない。

 厚化粧をした顔から股にかけて、里奈の身体が両断された。

 血と臓物をこぼし、左右に倒れる。


「どいつもこいつも、人の命や魔法をなんだと思っているんだ」


 サムは、自分がこんな人間にならないよう心がけよう。

 そう固く誓った。






 〜〜あとがき〜〜

 サムくんは勇者をぶっ殺してなかったことにしようとしましたが、やっぱり勇者は悪党だったので問題なしです!


 カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!

 最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!

 GWのお供に何卒よろしくお願いいたします!

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