77「不安のようです」
「さあ、君たちに酷いことをする者はもういない。安心していいよ」
レプシー・ダニエルズは、部屋に集めた奴隷や、使用人に穏やかな笑みを浮かべ、優しい言葉をかけた。
部屋の中には、男女十五人がいる。
十二人が奴隷の子供だ。三人が若い男女の使用人だ。
彼らは、戦いを始めたレプシーから隠れていた。
使用人の男女は、奴隷の子供たちを庇うように抱きしめている。
その行動だけで、彼らが善人であるとわかる。
スノーデン王国の王宮の中には、王族貴族、騎士、兵士、そして使用人と奴隷がいる。
騎士を名乗ることができるのは、貴族の人間や、実力のある平民だけ。
騎士に率いられるのが兵士たちであり、平民のみで構成されている。
使用人は、貴族の子女もいるが、やはり大半が平民だ。
そして、奴隷は両親が犯罪を犯したからと連帯責任で奴隷にされた者から、空腹に苦しみ盗みを働いだだけの者、なにもしていないにも関わらず奴隷に堕とされた者までいる。
残念なことに、王宮にいる奴隷以外の大半がスノーデン王国らしい人間だった。
だが、例外もいる。
「お、お前がどこの誰で、なにを目的にしているのかわからないが、子供たちに手を出すことは絶対にさせない! なにかしようというのなら、俺たちを殺してからにしろ!」
震える青年が子供たちを背に庇い、レプシーに大きな声を向けた。
「――ほう」
「この子たちは奴隷だが、虐げられても、命を奪われてもいい存在じゃない。子供は大人が守るんだ! お前がどこの誰でも、強くても、俺は子供を見捨てたりしない!」
青年の言葉は、レプシーに向けられているのではないと気づいた。
自らを奮い立たせるために声を大にしているのだ。
「――勇気ある者よ」
「な、なんだ」
レプシーは青年の前に立ち、敬意と尊敬を示すように胸に手を当てて頭を下げた。
「な」
「子供のために勇気を出すあなたを尊敬する」
青年は驚いた顔をした。
「レプシー・ダニエルズの名にかけて、愛しい妻子と、友たちに誓い、あなたたちに危害を与えないと約束する」
「……本当か?」
「もちろん。どうか、信じてほしい」
レプシーは青年に手を差し伸べる。
青年は迷っていたが、頷き、レプシーの手を握りしめた。
「この国は滅ぶだろう。我々が何もせずとも、ゆっくりと滅びに向かっている」
「……そう、だな」
「我々は、この国の子供が苦しんでいる姿を見て、戦うと決めた。言葉だけでは難しいだろうが、我々のことを信じてほしい」
「……わかった。頼むから、裏切らないでくれ」
「もちろん」
「……今は、信じる。この国が駄目だというのなら、子供たちだけでも脱出させたい」
「私もそのつもりだ。君たちを含め、保護したい。が、決定権がないので、我々の代表と合流するのについてきてほしい。なに、彼は人格者だ。君たちを保護することに躊躇わないだろう」
「……ありがとう」
「礼などいらないさ」
レプシーは、奴隷の子供たちの首輪を砕くと、青年たちの着替えさせるように頼んだ。
この部屋の外は、レプシーが戦ったせいで風通しがよくなってしまっている。
ボロ布を纏っただけの子供では、凍死してしまう可能性だってある。
青年たちが、タンスを漁り衣服を見つけて子供たちに着せていると、
「――っ、これは」
今までにない魔力を感じ取った。
「これは、友也のほうか?」
友也の実力は知っているが、今までの勇者や宮廷魔法使いとは比べ物にならない魔力を持つ何者かの存在に、レプシーは若干不安になるのだった。
〜〜あとがき〜〜
次回:友也くんサイドです。
そろそろ話が動いてきますので、お楽しみに!
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