71「サムと紅の勇者です」①





 サムは、倒れる騎士や魔術師を一瞥すると、


「絶対ウルも言ってそうだけど、飽きちゃった!」


 うんざりした様子で感情を吐き出した。


「どいつもこいつも、こっちの力を把握することなく、偉大なスノーデン王国がとか、侵入者などにとか、頑張って挑んでくる奴はまだマシなんだけどさ、王宮に殴り込んだ人間が降伏するわけがないだろうに。というか、なんだよ気に入った、我が配下になれって、お前は魔王か!?」


 サムは殺戮を好むわけではない。

 奪わなくてよい命をあえて奪う趣味もない。

 強い敵と戦うことが好きなだけであり、弱者を痛ぶる趣味はない。

 だからこそ、現状はしんどかった。


「きっと逃げ出した奴が一番頭いいんだよ。こんな国にさ、しがみついていたって得なんかないじゃん。残念すぎるけど、まともな貴族、騎士、魔法使いとひとりも会ってないからね!」


 サムがここ一時間も満たない間に出会ったスノーデン王国の人間は総じて屑ばかりだった。

 これだけ屑がいる国も珍しい。

 スカイ王国にも、貴族派貴族という問題のある貴族がいた。

 民をそこそこ虐げ、自分だけが良い思いをする典型的な悪徳貴族だ。

 それでも、まだマシな部類だと思い知らされた。

 スカイ王国の悪徳貴族たちは、問題はあった。悪党だった。それでも、民を人として見ていた。

 しかし、スノーデン王国貴族は、民を人と思っていない。


 民を人と見ながら悪事を働くことが、民を人と見ることなく悪事を働くこととどちらが悪いかと考えることはナンセンスではあるが、それでもまだ前者の方がマシだと思う。


「暴れていたウルも静かになったし、もうこの国も終わりだな。まさか平和を愛する俺が一国を滅ぼすことになるとは思わなかったよ」


 肩を竦めるサムに、離れた背後から攻撃魔法が放たれた。

 サムは振り返ることもせず、左腕を振るう。

 魔法が斬り裂かれ、魔法を放った魔法使いが横に両断されて崩れ落ちる。


「宮廷魔法使いも、勇者も、弱いとかいう前に屑だった。こんな奴らに時間を割いたと思うと……時間の無駄だったって心底思うよ。暖かい部屋でリーゼたちといちゃいちゃしていたかったなぁ」


 サムが王宮に乗り込んだのは、子供たちを虐げた国の王や貴族をぶっ飛ばそうと考えたからだ。

 同時に、王宮にいる「被害者」を助け出そうと思っていたのだ。


 しかし、どれだけ探せど、王宮の中には雪の中で震えていた子供たちのような人間はいなかった。

 他を探せばいるだろう。

 サムがただ会っていないだけかもしれない。


 もう少し探して「被害者」がいなかったら、貴族や王族など関係なく、王宮を吹き飛ばしても良いと考えていた。

 その上で、王族たちが生き残っても知ったことではない。


「――あんたやるわねぇ」

「……誰?」


 背後からかけられた声に振り返ると、厚化粧をした女性がいた。


「王宮に乗り込むなんてどんな馬鹿かと思ったら、可愛い子じゃない。お姉さんが可愛がってあげるわぁ」

「……おばさんがお姉さんとか痛々しくて見ていられないんですけど」


 サムがなにも考えず呟いた言葉に、女の顔が真っ赤になった。






 〜〜あとがき〜〜

 サムくん、自称紅の勇者さんとエンカウントする!


 カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!

 最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!

 何卒よろしくお願いいたします!

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