68「ウルと聖鱗の勇者の決着です」②
明らかに怯えて戦意喪失している聖鱗の勇者押井一井に、ウルは落胆しながら声をかける。
「よく考えろよ。ここで、私を殺せなかったら死ぬのはお前だぞ?」
「――っ」
「言っておくけど、子供を全裸で歩かせるようなクズは私は大嫌いだからな。最悪な死に方をすると思えよ?」
ウルの脅しに、一井が震え出す。
「どうして、どうして俺がこんなことに! ちくしょう、ちくしょう! 俺は主人公になったんじゃないのかよ!? なにをしても許される、絶対的な主人公になったはずなのに!」
「そういうのいいから。あと十秒あげるけど、なにもする気がないなら――わかるよな?」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!」
よい大人が涙を流し絶叫した。
一井の魔力が爆発する。
準魔王級に匹敵する魔力だった。
「おおっ、いいぞいいぞ! 最後の最後で覚醒したのか!?」
ウルが笑顔を浮かべる。
一井の手には、竜の鱗から作られたような大剣が握られている。
鱗と同じ、緑色の光を発する大剣を一井が正眼に構える。
「なるほどなるほど。防御に回していた鱗を攻撃に回して剣を作ったのか。鍛えれば、臨機応変に対応できるんだろうけど、なってないなぁ」
「俺をここまで本気にさせたんだ……絶対に殺してやる。俺の全てを、ぶつけてやる! この国なんてどうだっていい、この国ごと、何もかも消しとばしてやる!」
「いいぞ! やってみろ!」
ウルは楽しそうに笑った。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
地面を蹴った一井が、情けない絶叫を上げて、大剣を振り下ろす。
ウルは瞬きせず、まっすぐに一井から目を逸らさず大剣を微動だにすることなく受けた。
「…………………え?」
ウルは避けなかった。
魔力を使い防御こそしたが、腕で身体を庇うことさえしない。
魔力だって少し使っただけだ。
その理由も、寒いから服が駄目になったら困るというもの。
――そんなウルに聖鱗の勇者の一撃は、通用しなかった。
大剣は、確かにウルに直撃した。
その後、曲がったわけでも、折れたわけでもなく、崩れたのだ。
神から与えられた力が、ウルに攻撃したことで崩壊したのだ。
「……がっかりだよ、お前さ。私の弟子はさ、少し前までお前よりも魔力や基本スペックは弱ったけど、絶対負けるもんかって目をギラギラして足腰立たなくなるまで貪欲に立ち向かってきたんだぜ?」
広げていた腕を下ろす。
「剣が壊れたなら次は拳があるだろう! 拳が駄目になった足があるだろう! なんで、てめえは自慢の一撃が通用しなかったってだけで、口を開けて動きを止めているんだよ! この馬鹿野郎!」
ウルの魔力がこもった蹴りが放たれた。
彼女の右足は、まるで吸い込まれるように足を開き茫然と立つ一井の股間に直撃する。
股間が潰れ、骨が砕け、腸をはじめとする内臓が潰れ、歪な形に歪んだ肉体となった。
悲痛な叫びも、命乞いも、なにも口にできず、聖鱗の勇者押井一井は短い異世界生活に幕を閉じたのだった。
〜〜あとがき〜〜
一応、補足しておきますと、修行時代のサムくんでも一井さんには勝てます。
キリサクモノ一発です。
一井さんは、力こそ準魔王に匹敵しておりましたが、それを使いこなす技量がなく、経験もなく、自らを育てる志もありませんでした。
つまるところ、宝の持ち腐れでした。
カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!
最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!
何卒よろしくお願いいたします!
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