65「ウルと聖鱗の勇者です」③
殴り飛ばした男が地面を跳ね、壁を突き破った。
幸にして、男が握っていた鎖は手が離れていたので奴隷の子供たちが巻き込まれる様子はなかった。
「……ほどよく手加減って難しいな。殺さないようにはしたけど、死んでないよね?」
ウルが暴れた場所は崩壊寸前だ。
だが、ウルも考えてやっているので、ギリギリの一線は超えていない。
倒れているメイド、騎士を避けて吹っ飛んでいった男を追う。
「お、いたいた。おーい、生きているか?」
男はすぐに見つかった。
ベッドと家具が並んだメイドたちの部屋と思われる一室で倒れていた。
「あーあー、家具まで巻き込んで、悪いやつだ」
「てめぇ……聖燐の勇者である、この押井一井に向かって」
「せいりんのゆうしゃってなんだよ?」
聞いたこともない勇者の肩書きに、ウルが首を傾げる。
すると男は何を思ったのか、立ち上がり、上着を脱いだ。
「……てめぇ、もう許せねえ。俺を本気にさせちまったな!」
「あ、そういうのいいから。早く説明しろよ」
「このクソガキが、俺の力を知ってびびっちまえ。怯えて命乞いしたら、まあ、奴隷にして生かしてやるぜ」
(なんで三下って、同じようなセリフを吐くんだろうか? あれか? 言わないといけないルールでもあるのか?)
さらに首を傾げるウルの態度をどう取ったのか不明だが、一井は袖をめくって腕を見せつけた。
お世辞にも戦闘者とは思えない貧相な腕だった。
「見ろ、これが俺の聖燐だ!」
自慢げに言う一井の腕から顔にかけて緑色の鱗が浮かぶ。
一井の瞳は赤く染まり、瞳孔は金色の縦長となった。
「……蜥蜴の鱗を見せられても」
「竜だよ! 俺は、竜の鱗を手に入れたんだ! わかるか? 絶対的な防御力だけじゃない! この状態の俺は竜と同等の力を手に入れているんだ! その気になれば、お前のことを引き裂くことだってできる!」
「……竜ねぇ」
竜が強いことをよく知っているウルは、目の前の男が竜と同等と言われても納得できない。
実家の浴室を占領しているメルシーたちの方が比べ物にならないほど、力を持っている。
「てめえみたいなガキが竜の強さを知らないのはわかっている。わかりやすく教えてやるよ、俺は素手でモンスターを引きちぎることができる」
(私でもできるんだけどなぁ)
「魔法をそれなりに使えるようだが、俺は今までどんな攻撃も、魔法も食らっても痛いと思ったことがない!」
「へぇ」
「俺はまさに人の姿をした竜だ!」
両腕を広げて自らを誇る一井の腕をウルは掴んだ。
確かに鱗に覆われているが、竜ほど耐久性があるとは思えなかった。
(あ、そうだ。試してみればいいんだ)
思い立ったら吉日。
「えーい」
ということで、ウルは一井の腕を思い切り引きちぎった。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!?」
鼓膜が破れそうなほど大きな絶叫が響いた。
〜〜あとがき〜〜
補足しておくと、一井さんはギリギリ竜程度の力はあります。
それでも、デライトさんはもちろん、ジョナサンさん、ローガンさん、ビンビン王でも苦戦しますが勝てます。
カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!
最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!
何卒よろしくお願いいたします!
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