64「ウルと聖鱗の勇者です」②





 自称聖鱗の勇者押井一井おしいかずいは、異世界に勇者として召喚された勇者だ。

 それまでは、うだつが上がらないサラリーマンだった。

 ブラック企業に勤め、同期たちが辞めていったが、転職することもできずずるずるこき使われる日々を送っていた。


 恋人もおらず、家族とも疎遠。

 日々の癒しなどなにもない。

 二十代の頃は、まだ体力的に余裕があったので、ゲームをしたり、友人とキャンプにいったこともある。


 しかし、三十代に入り、体力も気力も落ちると、仕事から帰ったら発泡酒と酎ハイを意識を失うまで飲むことくらいしか楽しみがなくなっていた。

 酒の味もわからない。

 動画を眺めながら、ディスプレイの向こう側の人間に「お前は楽しそうでいいよなぁ」と愚痴を吐いて、眠る。

 そして、また社畜として働くのだ。


 そんな日々に、突然変化が現れた。

 空アポをとってスーパーの駐車場で煙草を吸っていると、眩い光に包まれた。


 ――気づけば、真っ白な空間にいた。


 昔、読んだライトノベルを思い出す展開だった。

 そこからは、一井が望んだように、力をもらい、強者となった。


 召喚された勇者は自分だけではなかったが、一井は気にならなかった。

 自分が一番強いことを理解していたからだ。


 国は一井たちを歓迎し、貧しいながらに歓迎してくれた。

 食事と酒はたいしたものではなかったが、女を自由にしていいということは気に入った。

 女性関係が数える程度しかない一井は、大人ではなく、あえて少女を選んだ。

 奴隷の、立場の弱い少女を屈服させることはすさまじい快感だった。

 一井は、調子に乗り、少年にも手をだす。

 だが、誰も咎めることはない。

 すべては、一井が強者だからだ。


 一井は戦うことが好きだった。

 もらった力を自分のものにするために、鍛え、応用した。

 近隣のモンスターを率先して倒したことで、王族貴族の信頼を得た。

 貴族の女性たちが雌の顔をして擦り寄ってもきた。

 だが、一井は奴隷たちを寵愛した。


 貴族の女性たちには「身分が違います」と謙遜していたが、要は自分に自信がないのだ。

 奴隷という立場の弱い子供でなければ、自分の欲望さえぶつけることができなかった。


 そんな自分のことを見て見ぬ振りをして、一井は自分を強者だと思い込む。

 モンスターを倒し、裏切り者を殺し、王ネイモンと友人に認められるほどになった。


「俺はすべてを手に入れてやる!」


 ネイモンの野望に乗り、大陸支配を決めた。

 話のわかるネイモンは、一井を王にしてくれると言った。

 支配した国を、好きなようにしていいと。


 一井は野望を抱く。

 魔王を殺せなどという使命などどうでもいい。

 今の一井は、日本でずっと辛い日々を耐えていたご褒美を謳歌しているのだ。




 ――だからこそ、幼い少女に殴られて吹き飛んでいく事実を受け入れることができなかった。






 〜〜あとがき〜〜

 聖鱗の勇者押井一井さんでした。

 安心してください、まだ死んでいませんし、ちゃんと殺されます!


 カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!

 最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!

 何卒よろしくお願いいたします!

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