56「レプシーと勇者の戦いです」②






 騎士がひとり、雄叫びを上げてレプシーに切り掛かった。


「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!」

「その覚悟、よし」


 恐怖を浮かべながら、まっすぐに立ち向かった騎士を讃え、レプシーはあえて剣を受けた。


「――あ?」


 まっすぐに振り下ろされた剣はレプシーの身体を傷つけることはできなかった。

 まず、彼に与えられていた剣がなまくらだったこと。

 次に、強大な魔力を持つレプシーは、意識して身体強化をせずとも魔力の恩恵を受けて肉体は常人よりも優れていた。

 結果として、騎士の剣はレプシーに弾かれてしまったのだ。


「君の勇気を賞賛しよう。――全てを喰らう者」


 騎士の首から下が、円形に削り取られた。

 残った手足が床に落ち、続いて首が落ちる。

 ごろん、と落ちた首は何が起きたのかわからず目を見開いたまま絶命している。

 レプシーはそっと彼の目に手を当て、閉じる。


「君は立派な騎士だった。安らかに眠って欲しい」


 黙祷したレプシーは、未だ動けずに固まる騎士たちに金色に光る目を向けた。


「さあ、次は君たちの番だ。誇り高く戦うか、尻尾を巻いて逃げるか選ぶといい」


 騎士たちは、次々と剣を捨て背を向けて走り出す。

 レプシーは落胆した。

 スノーデン王国の上層部が屑に成り下がっても、騎士たちは誇り高いと信じていたのだ。


「――残念だ」


 レプシーは静かに指を逃げる騎士たちの背に向けた。


「……おっと、逃げる者は追わないのだったね」

「いーや、それは俺の役目だぜ!」


 魔力を込めて一撃を放とうとするレプシーが、腕を下ろすよりも早く、騎士たちはバラバラになった。

 騎士だけではない。

 動けずに傍観するしかなかったメイドも巻き込まれて、手足、首、胴を細かく斬られて崩れ落ちる。

 彼女たちの目は何が起きたのかわからない、と見開かれている。


「ったく、この国の人間はどいつもこいつも屑ばかりだ」


 うんざりした顔で大剣を肩に乗せて現れたのは、まだ年若い青年だ。

 年齢は十八ほどだ。

 黒いカーゴパンツとハイネックセーターを身につけ、編み上げのブーツを履いた黒髪の青年だ。


「――勇者か」

「正解!」


 青年は指を鳴らし、大剣を廊下に突き立て背を預けて寄りかかった。


「俺は反撃の勇者――」

「お前の名前などどうでもいい」

「あん?」


 レプシーは、静かな殺意を込めて青年を睨む。

 今まで殺意など向けられたことがないのだろう。

 青年が怯え、汗を流した。

 だが、それもわずかなこと。

 すぐに虚勢を張って、大きな声を出す。


「こっちはお前ら異世界人のせいで娯楽も何もない世界に呼ばれてうんざりなんだよ! 女に困らないのは嬉しいけど、それだけだ」

「お前の事情など知らない」


 レプシーはおもむろに歩き出す。

 まっすぐ青年に向かう。


「てめえも殴り込みなんてしやがって! 俺はこの世界で気持ちいいことや楽しいことがしたいだけなんだよ! ガチで喧嘩とかしたくねえんだよ!」

「黙れ」


 決して怒鳴ったわけではないレプシーの声はよく通り、青年に届いた。

 たった一言で、青年から汗が噴き出す。

 彼は反射的に大剣を握り構えた。


「や、やろうっていうのか! 俺は反撃の勇者だ! 受けたダメージの何倍を自らの力にできるんだ! お前が攻撃すればするだけ俺は強くなるんだぞ!」

「ならば怯えた顔などせず、堂々と胸を張るといい」

「――てめ」

「私はお前のような味方を躊躇いなく殺すような人間に負けることはない」

「はっ! 俺はスノーデン王国の味方じゃねえよ!」


 青年はレプシーよりも早く仕掛けた。

 床を蹴り、一瞬でレプシーの眼前に現れると、振り上げた大剣を振り下ろす。


「お前を殺す勇者の名を覚えておけ! ――俺の名は」

「――全てを喰らう者」


 レプシーは青年の名乗りを無視して、彼の腹部に指を当てた。






 〜〜あとがき〜〜

 勇者の中でも雑魚さんです。


 カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!

 最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!

 何卒よろしくお願いいたします!

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