55「レプシーと勇者の戦いです」①
レプシー・ダニエルズは、かつて魔王として君臨していた強者である。
サミュエル・シャイトによって死を迎え、別世界に転生したことで失った妻子と再会することができた。
創造神によって転生した世界から、再び元の世界に戻ってくることができたという複雑な経歴の持ち主である。
現在は魔族ではなく、魔王ではない。
だが、人間でありながら人間としての器を超えた存在となっている。
かつての世界ではウルリーケ・ファレル・ウォーカーと共に世界征服を軽々としてしまったが、他にすべきことがなかったとも言える。
対して、この世界は面白い。
友や仲間がいて、楽しい日々だ。
神がいて、勇者がいて、毎日が忙しい。
魔王時代でも、ここまで心躍る日々はなかっただろう。
レプシーはサムに感謝していた。
妻子を失い暴走し、殺戮の限りを尽くしたレプシーが封印されてから、ずっと死にたかった。
しかし、レプシーを殺せる存在は少ない。
最古の魔王ヴィヴィアン・クラクストンズこと日比谷白雪か、魔王遠藤友也、竜王炎樹くらいでなければレプシーを殺せなかった。
だが、炎樹は魔族や人間に関わることはなく、白雪と友也は親しかったゆえに殺すという選択肢を選ばなかった。
そんなレプシーを殺してくれたのは、成人していない少し幼さの残る少年だった。
紆余曲折あったが、今は幸せだ。
レプシーは今の幸せを守るために戦うのだ。
家族、友人、恩人、みんなのために。
■
レプシーはゆっくりスノーデン王国王宮の二階を歩いていた。
すでにサムたちの暴れっぷりが伝わっているのか、騎士が剣を抜いて立ち塞がっている。
騎士の背後には、メイドなどが遠巻きに見ている。
「スノーデン王国の王宮にたった数人で襲撃するとは――」
三十人ほどの騎士をまとめていると思われる、髭を生やした男がレプシーに唾を飛ばす。
「……静かに」
レプシーは人差し指をそっと唇に当て、小さくつぶやく。
次の瞬間、先頭にいた騎士はガクガクと身体を震わせると、泡を吹いて倒れた。
「私はレプシー・ダニエルズ。今の肩書きは、平和主義の一般人さ」
レプシーは歩みを止めない。
騎士たちが後退りしながらレプシーと距離を取る。
彼らの目には怯えが宿っていた。
「君たちに選択肢をあげよう」
歩みを止めたレプシーは指を二本立てた。
「ひとつ。誇り高き騎士として私に立ち向かい、死ぬ」
ごくり、と騎士たちが唾を飲んだ音が聞こえた。
「ふたつ。立場や何もかも投げ捨てて逃げ出して、生き延びる」
レプシーはあくまでも穏やかな声音のまま尋ねた。
「さあ、どちらを選ぶかな?」
〜〜あとがき〜〜
レプシーさんは、バーサーカー師弟と違って情けがあるのです!
3/27に「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
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