51「戦いの時間です」①





「んじゃ、とりあえずそれぞれ暴れますか!」


 サムの掛け声に、ウルが「おう!」と嬉しそうに拳をかかげる。


「一番、首取った奴が優勝な!」

「ウル蛮族すぎない!? 転生前だってこんなじゃなかった……いや、こんなだったか」


 悪人の命を奪うことに抵抗などないが、首をとって数えることはしたくない。

 そのような労力をそんな連中にしたくないのだ。


「なんだよ、ノリが悪いな」

「ウル……そろそろ真面目にやろうぜ」

「馬鹿野郎! 私はいつだって真面目だ!」

「……でしょうね!」


 生き生きしているウルに、サム、レプシーは苦笑している。

 友也、ジーナ、タマラは若干引いていた。


「ったく、満足して死んだつもりだったが、こうしてまたサムと一緒に暴れられるって言うのは嬉しいな!」

「――ウル」

「生きるっていうのは楽しいな!」


 満開の花のような笑顔を浮かべたウルに、サムは見惚れてしまう。

 だが、すぐにウルの顔は獰猛な戦士のそれとなった。


「よし! 誰が一番勇者ぶっ殺すか勝負だ!」

「あ、うん」


 サムは、先ほど見たウルの笑顔を見間違いかな、と目を擦った。


「あ! 一応、この国の王は殺すなよ? じゃあ、勝負だ!」


 もう我慢できないとウルは走り出してしまった。

 すぐに「ぐへっ」「ぎゃっ」「ひぃぃぃっ」と悲痛な声が聞こえる。


「さて、サム、友也、私たちもこの国の民のために戦おうではないか」

「レプシー……いや、あの、割とノリノリね」

「先ほども言ったが、人の身でどこまでできるか確かめたい! では、私もウルに続こう!」


 レプシーもノリノリだった。

 床を蹴った彼は、二階に走っていく。

 次の瞬間、轟音と共に城が大きく揺れた。


「出会った頃のレプシーは、あんな感じでしたよ。僕たち魔族は精神年齢は緩やかに成長するのです」

「へぇ」

「新たな生を受け、生まれ変わったレプシーは精神年齢も若くなったのでしょう。いいことだと思いますよ。彼は我慢ばかりしてしまう性格でしたので、今のくらいがちょうどいい」


 友也は明るいレプシーを見ることができて嬉しそうだ。


「俺たちもふたりに負けないように……あ、ジーナさんとタマラさんはどうする?」

「そうでしたね。一緒に来ても構いませんが、どうしますか?」


 尋ねられたふたりは、少し躊躇いながらサムと友也に口を開く。


「もし、許されるのであれば、兵士や騎士の中でもまともな人間を助けたいと思うのだが、許していただけるだろうか?」

「みんながみんな悪人じゃないんだ!」

「…………どうしますか、サム?」

「いいんじゃないかな? 別に、この国の民を全員殺したいわけじゃないんだし、善人を殺したって意味がないし」

「ということです。声をかけたいのならご自由に。ただし、あとでこちらで聴取をさせていただきます。また、必ずスカイ王国に連れていくことはしませんからご理解ください」


 サムも友也も、善人ではあるが偽善者ではない。

 全員を救おうなんて思わないし、飢えていた子供はまだしも、大人を保護するつもりはない。

 いずれこの国の上層部は壊滅する。

 その際に、まともな人間が立ち上がればいい。できないのなら、勝手に滅べ――くらいには、スノーデン王国のことは割り切っていた。


「感謝する」

「救いがあるだけマシだ!」


 ジーナとタマラは、サムと友也に頭を下げると、仲間に声をかけに向かう。

 ふたりの背中を見送るサムに、友也が尋ねた。


「サムはどうします?」

「俺はここにいるよ?」

「……ふむ。では、僕は三階に向かいます。万が一ということもあります、お互いに気をつけましょう」

「ありがとう。友也も気をつけて」


 ハイタッチすると、友也は階段を登っていった。


「…………」


 残ったサムは、白い吐息を吐き出すと、魔力を高めた。


「――出てこいよ、見ているんだろ?」


 サムは視覚的には誰もいないはずの空間に声をかけた。






 〜〜あとがき〜〜

 さあ、バトルに突入です!


 3/27に「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!

 何卒よろしくお願いいたします!

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