間話「白山篤志の場合です」
白山篤志は、自らの人生を満足していた。
優しい両親、慕ってくれる妹、切磋琢磨しあう友人に囲まれて、楽しい高校生活を終えて大学に進学予定だった。
勉強とスポーツを努力し、生徒からも教師からも人望があり、女子からはモテた。
大学生活に不安などなく、楽しい四年間を過ごそうと決めていた。
――しかし、篤志は大学に通うことはできず異世界に召喚されてしまう。
何度も戻りたいと思った。
家族恋しさに泣いたこともある。
力も、勇者という称号もいらないので日本に還してとほしいと何度も願った。
だが、その願いが叶うことはない。
スノーデン王国は、汚泥のような国だと篤志は思った。
平民を差別する貴族、王族。
気に入らないと感情に任せてしまう人間たち。
我慢、という言葉を知らないのだ。
例えばメイドが貴族に叱責されると謝罪するが、その鬱憤をもっと立場の下の人間にぶつけるのだ。
理不尽の連鎖が当たり前にこの国にあった。
篤志は絶望した。
せめてもっとまともな世界だったら、と何度も考えた。
ならば自分だけでも良い人間であろうとする。
あてがわれた奴隷にも優しくし、慕われるようになった。
他勇者たちと交流を試みた。
こんな国でもまともな人間はいるはずだと信じて接してみた。
――その全てが裏切られた。
奴隷は、他の奴隷をいじめるようになった。
なんでも勇者に尽くしている立場だけでも、奴隷の中で上らしい。
意味がわからなかった。同時に、気持ちがわるかった。
なので、殺した。
勇者たちは、その力に酔い、まるでゲームの主人公になったように力を使っていた。
まともな人間もいるにはいるが、ひとりは部屋から出てこず、ひとりは早々に国を出てしまった。
騎士、兵士、メイド、料理人、様々な人間と関わったが、時間の無駄だった。
「なんて僕はかわいそうなんだ!」
次第に篤志は自らの境遇を嘆くこととなる。
理解はできる。
彼と同じ境遇になれば、誰でも自分を「かわいそう」と嘆くはずだ。
篤志は生きる気力を無くした。
いっそ死んでしまえば、夢だったと目を覚ますかもしれないとも思う。
――そんな折、ふたりの勇者が死んだ。
彼らの死は、篤志の力を大きく強化することでわかった。
スノーデン王国に召喚された勇者の中でも下から数えた方が早い勇者だった篤志の力が大きく跳ね上がり、上から五番の力となった。
驚いたと同時に、怖くなった。
未知なる力が自分を滅ぼすのではないかと覚えたのだ。
危険かもしれない力を持っていることは怖かったので、試しに力を使ってみることにした。
――強力な魔法は篤志の世界を変えた。
なんという高揚感。
凄まじい快感。
日本では味わえなかった「何か」が間違いなくあった。
力を受け入れてしまった篤志は、もっと力が欲しくなった。
ふたりの力で、比べものにならない力を得たのだ。
三人なら、四人なら、五人なら、どうなると妄想が止まらない。
スポーツでも、勉強でも、人気でも一番だった篤志は――この世界で一番の強者になりたいと思ってしまったのだ。
そして、残念なことに、その欲を抑える術を彼は知らなかった。
〜〜あとがき〜〜
篤志くん覚醒したお話です。
次回、サムたちの殴り込みです。
27日に「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
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