62「ギュンターの決断です」①
「ママ!?」
「いいのです。ギュンター様。リーゼ様も心配ですし、ここでわたくしが逃げたせいでお父様お母様たちになにかあったら、絶対に後悔してしますわ」
クリーは気丈に振る舞い立ち上がると、アルフレッドの近くに歩み寄る。
「良い判断だ。変態の悔しがる顔を見ることができて、気も晴れたよ。一応、スカイ王国国民でも聖女は聖女だ。大事に扱うと約束し――あ?」
余裕ぶった笑みを浮かべていたアルフレッドの言葉が止まる。
そして、口から血が流れた。
「わたくしが可憐な美少女だからと油断しましたわね」
不敵に笑うクリーの右腕がアルフレッドの胸に突き刺さっている。
彼女のスキルである『透過』を使ったのだろう。
そして、クリーが腕を引き抜くと、胸から鮮血が流れた。
「とりあえずあなたには死んでいただきます。さあ、ギュンター様! リーゼ様たちをお助けに行きましょう!」
クリーの手には、アルフレッドの心臓が握られている。
まるで汚物だと言わんばかりに床に心臓を投げると、靴で踏み潰した。
「……さすがママ。まさかそこまで動けるとは」
「ギュンター様のために日々鍛錬を欠かしませんもの! さあ! ウォーカー伯爵家に」
「行かせるとでも思うのかい?」
アルフレッドは生きていた。
胸に穴を開け、心臓を踏み潰されながら、憤怒の形相を浮かべ、生きていたのだ。
「少し優しくすればこうだ。なぜ自分が僕に生かしてもらっているのだと理解しない!」
クリーの首を掴んだアルフレッドが、憤怒の表情から笑顔に一変する。
「聖女には手を出せないが、ペナルティは必要だね」
「――やめ」
「では、妻の罰は夫に受けてもらおう」
アルフレッドは、神力を高めると一本の剣を虚空から引き抜きギュンターへ振り下ろした。
咄嗟に結界を張ったギュンターであったが、結界は難なく斬り裂かれ、そのまま袈裟切りにされてしまう。
「いやぁああああああああああああああああああああああ!」
ギュンターは血飛沫を撒き散らし、地面に倒れる。
そして、そのまま動かなかった。
「ギュンター様! ギュンター様! ギュンター様!」
「黙れ! 鬱陶しい! これ以上騒ぐならこの家の人間を全て殺すぞ!」
「――っ」
動かなくなったギュンターを中心に、真っ赤な血が広がっていく。
クリーは涙をボロボロ流しながら、手を伸ばすが、届かない。
「さあ、ふたりめの聖女を手に入れた! これで、また一歩、女神の復活に近づいたぞ! ふははは! あはははははははははははははは!」
アルフレッドが高笑いをしながら、クリーを抱えて窓から飛んだ。
目指すはウォーカー伯爵家だ。
まずは、リーゼを確保した自分と合流する必要があった。
■
クリーが連れ去られてから数分が経ち、神力の一撃をくらい絶命していたギュンター・イグナーツが息を吹き返した。
「…………すまない、クリー。久しぶりだったため時間がかかってしまった。人の身でここまで追い詰められたのは初めてだ」
ギュンターは怒りに任せて、寝室の壁を拳で破壊した。
「アルフレッド・ポーンだったね。紛い物の女神を信奉している程度なら、まだ可愛げがあったが、僕の妻に手を出した挙句、妹同然のリーゼ、そしてサムの子にまで……ふざけるな」
ギュンターは、アルフレッドを追おうとしたが、足を止めた。
苦い顔をした彼は、「……これだけはしたくなかったが、クリーやリーゼのためなら構わない」と言い、天井を見上げた。
否、彼の目には天井よりも遥か遠い違う場所が映っていた。
そして、ギュンターは消えそうな声で囁いた。
「――■■■の名において、神界の扉よ、開け」
ギュンターの言葉に従うように、金色の光が彼を包み、そして消えた。
〜〜あとがき〜〜
次回、1000話以上を経てようやくギュンターの秘密が!
お楽しみに!
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よろしくお願い致します!
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