52「竜の里です」②
「ふう。実に、竜の血はまずいね。力を得るためには、強い魔力が篭った竜の血を飲むことが手っ取り早いんだが、人外の血を取り込まなくてはいけないことに反吐が出てしまいそうだ。あ、すまないね。もう一杯いただけるかな?」
「てめぇ……竜の血を青汁みたいに飲みやがって!」
サムは青年の行為に強い憤りを覚えた。
吸血鬼が血を求めたとしても、このような品のない飲み方はしない。
グラス一杯の血を飲むならば、竜を殺さずとも良かったのだ。
思うことのあった竜の長老たちだが、死んでいいわけではない。もしかしたら、話せば反省してくれたかもしれない相手を、話すこともできない結末にされたのは実に不愉快だった。
サムが青年に向かい一歩前に出ようとするよりも、早く、エヴァンジェリンが飛び出した。
「――エヴァンジェリン?」
よく見れば、エヴァンジェリンだけではなく青牙と石動もそして炎樹さえも、信じられない者を信じられないものを見たと目を見開いている。
サムに疑問が浮かぶが、その答えはエヴァンジェリンの口から放たれた言葉で理解することができた。
「……どうして、どうしてお前が生きているんだ! お前は私が殺しただろう!」
怒り、恨み、若干の悲しみ、などを混ぜ合わせた複雑な感情を混ぜた怒声を吐き出すエヴァンジェリンに、青年は古い友人に会ったように軽く手を上げた。
「数百年ぶりだね、エヴァンジェリン。僕のかつての恋人」
青年の言葉が逆鱗だったのか、エヴァンジェリンが後先考えずにブレスを放った。
エヴァンジェリンの本気のブレスを見たのはサムは初めてだった。
次期竜王候補とされていただけあり、同じ立場の玉兎よりもおそらく上である魔力が込められた高火力のブレスが、まるでレーザーのように放たれ、竜の亡骸と騎士を消しとばして青年を飲み込んだ。
エヴァンジェリンのブレスはそれだけに留まらず、玉座を、背後の大木を飲み込んでいく。
「……これは、凄まじい」
サムはエヴァンジェリンと戦ったことがない。
だが、戦えばただではすまないのだとわかり冷や汗を流す。
普段は、スカイ王国の愉快な変態どもを相手に苦労しながらも女神と慕われている彼女も、やはり根本的には魔王なのだと思い出させるのは十分だった。
しかし、ブレスが収まりエヴァンジェリンが荒い吐息を吐き出すと、そこには平然な顔をしてワイグラスを持ったままの青年がいた。
「――っ、くそっ、忌々しい! てめぇにそんな力があったなんてな! 一度は私に呪い殺された癖によぉ!」
「そんなことないさ、エヴァンジェリン。いや、かつての恋人だったときのようにエヴァと呼ぼうかな。僕は君に呪い殺され、死んでしまったよ。復活するまでに時間がかかったし、君のせいで今でも力を取り戻すことができない。だから、竜の責任は竜の責任ということで、彼らの血をいただいた。吐きそうなほどまずかったけどね」
笑顔の青年こそ、かつてエヴァンジェリンが恋に落ちた人間の青年だった。
〜〜あとがき〜〜
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