51「竜の里です」①





 石動がスカイ王国を訪れた翌日。

 サム、エヴァンジェリン、竜王炎樹、青牙、青樹、ゾーイ、カル、そして霧島薫子の総勢八名がウォーカー伯爵家の中庭から竜の里へと転移した。


「――っ」


 どこかエルフの里と似ている、覆い茂る緑の木々と肥沃な大地が広がる里についた瞬間、サムの鼻に血の匂いが届いた。


「サム!」


 サム以上に反応が早かったのはゾーイだった。

 数秒遅れてエヴァンジェリンたちも、里の不穏な気配に気づいた。


「ダーリン! ママ!」

「……急くな、落ち着いて行動しろ」


 緊張するサムたちに炎樹の低い声が届き、動きを止める。

 深呼吸しながら、血の流れる場所を探して一行は進んでいった。


「――なんだよ、これ。ひでぇ」


 数百年ぶりに帰った故郷の惨状に、エヴァンジェリンが切ない声を上げた。

 無理もない。

 里の中央部に位置する場所にたどり着いた一同を待っていたのは、倒壊した家屋、血を流す竜たちの姿だった。


「――私が回復魔法をかけます!」


 誰よりも先に飛び出したのは、薫子だった。

 聖女である彼女は、いや、聖女など関係なく倒れ、血を流しながら、まだ生きているのならば手を差し伸べるのは当たり前のことだ。


「薫子さんっ! ああ、もう! 私は薫子さんについて行きますから、サムさんたちは里の襲撃者を! 首謀者は、里の奥にいるっす!」

「……里の中央には、炎樹様のお場所と我ら長老たちの集会場があります」


 カルが薫子を追いかけていく。

 サムたちは、薫子の言う通りに里の奥から力を感じていたので、進んでいく。

 途中、人の姿をした竜の子供が、倒れる家族を前に泣いている姿を見て胸が痛んだ。

 サムが回復魔法を施そうとしたが、すでに子供の家族は事切れていた。


「……私が。どんな奴だか知らないけど、ぶっ殺して」

「わかった」


 青樹が子供を保護し、他にも泣いている子、呆然としている子、動かない子を抱きしめる母親の元に駆け寄っていく。

 あまりにも辛く悲惨な光景に、サム羽目を背けたくなった。


「……竜の里が襲撃されたのはわかる! わかるが、誰が、なぜこんなことをしたのだ! いや、そうではない! これだけの竜を相手に戦える者がいるのか!」


 青牙の怒りと悲しみのこもった声に、サムは「確かに」と考える。

 誰よりも青い顔をしている石動は竜の里の長老のひとりだ。そんな彼の力は、準魔王にやや劣るくらいだった。

 長老が何人いるかわからないが、準魔王に近い強さをもつ竜が簡単にやられてしまうとは思わない。

 同時に、こんなことができる者は限られている。


(準魔王か魔王……は、力がってもする理由がない。俺の知らない準魔王がいる可能性もあるし、元魔王なんて存在もいる。それに……一番考えたくないけど、ヴァルザードの兄弟たちなら、操られているらしい彼らなら理由はなくてもできるかもしれない)


 最悪のことばかり考えてしまう。

 石動の案内を受け、里の中央部にたどり着いたサムたちを待っていたのは、


「おっと、すまない。まさか里を開けていた君たちがこれほど早く帰ってくるなんて思ってもいなかった」


 玉座と思われる石の椅子に座り、足を組みながら、ワイングラスで赤い液体を飲んでいる青年。

 そして、絶命し倒れている五体の竜と、竜から血液を奪っているふたりの騎士だった。


「初めまして、サミュエル・シャイトくん。では、君との出会いに乾杯」


 青年は、グラスを掲げると赤い液体――竜の血を飲み干した。







 〜〜あとがき〜〜

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