50「オフェーリアの気持ちです」③





「落ち着きなさい。仮にもサムに任されて領地運営をしているのだから、執務室で大声を出すとかいかがなものかしら」

「大きな声を出させているのはお母様のですが!」

「まあいいわ。それで、あなたとサムのことよ」

「……はい。もう話を進めましょう」


 母にペースを崩されてばかりのオフェーリアは諦めて話を進めるように促す。

 イーディスはにこりと微笑むと、「ええ」と言って話を進めた。


「サムとあなたは正式に婚約はしているけど、まだお披露目会をしていないわね」

「そういえば……そうでしたね。忙しかったので忘れていました」

「こういうことは私たちのほうから話を進めてあげるべきだったのだけど、ごめんなさい。こちらも少し忙しかったのよ」

「いえ、そんな謝っていただくことの程ではございません」

「でも、お披露目会をしていないせいで……まだサムの妻の枠があると勘違いしている家があってね。ウォーカー伯爵家に見合いの話が凄いみたいよ」

「まあ」


 オフェーリアには初耳だった。

 ときどき、ウォーカー伯爵家に顔を出しているが、ジョナサンとはあまり顔を合わせていないことを思い出す。もしかすると、見合い関連の話で忙しかったのかも知れない。


「基本的にウォーカー伯爵は断っているわ。中には、粘る家もあるようで、シナトラ家や雨宮家、紫家、そして王宮にもサムを紹介してほしいとお願いがあるそうよ」

「イグナーツ公爵家にはないのですね」

「……ウルリーケ・シャイト・ウォーカーと結婚したいと言った青年がいたのだけど、どこからか聞きつけた国一番の結界師によって一週間の間、屋敷を結界に覆われて誰も出らなくなったことがあるそうよ」

「……あら、普通ですわ! もっと変態的な報復をされるかと思っていましたわ!」

「今ならするでしょうね。だからイグナーツ家には頼めないでしょう。むしろ、現時点でサムと結婚しようとする家はなかなかガッツがある家だと思うわ」

「褒めてどうするのですか、褒めて!」


 確かに、現在もサムに縁談を申し込む家は母の言う通り気概があるといえるだろう。

 だが、変態がいくつかオプションでついてきてしまうが、魔王、準魔王、魔族関連と関わることができるのは美味しいはずだ。

 中には、様子見をしている貴族たちも多いと聞くが、今動けている貴族たちは、きちんと今後のスカイ王国が魔族と積極的に交流していくことがわかっているのだろう。


「そんな家への牽制も兼ねて、婚約披露をすることにしたわ」

「いつですか? わたくしにも仕事があるので、事前に言ってくださらないと」

「新年の王宮のパーティーで少し時間をいただけることになったわ」

「王宮って……王族がすることであって、公爵家がすることではないでしょう」

「あら、サムは王家の血を引いているのだから、王宮でもいいじゃない」

「……そうでしたわね」


 母の元婚約者であり王弟のロイグ殿下の忘れ形見が、サミュエル・シャイトだ。

 ある意味、ジュラ公爵家では口に出せない人の子であるはずのサムが、母と娘がそろって入れ込んでいるのは不思議なものだと思う。


「あと、あまり脅かしたくはないのだけど、オフェーリアに護衛をつけるわ。よからぬことを考える者が絶対にいないわけではないからね」

「……はい。お願いします」

「さて、難しい話はこのくらいにして、領地の動きを教えてちょうだい。今日は、婚約披露の話もだけど、抜き打ちでの様子見もあるの」

「いいでしょう。わたくしの領地運営の結果を……と言っても、あまり進んでいないのですが」


 母と娘は、シャイト伯爵領に関して真剣に話をするのだった。







 〜〜あとがき〜〜

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