39「あと一ヶ月で年越しです」





 第二王子エミルの恋愛模様などがあってから、しばらくは変態が大暴れするくらいのんびりした日々を送っていた。

 気づけば、新しい年まであと一ヶ月を切っていた。


 この世界では、クリスマスは存在しない。

 代わりに新年を盛大に祝うのだ。

 王宮で盛大なパーティーが開かれ、城下町も賑わうらしい。

 貴族たちは、基本的に冬の間を王都で過ごし、王宮のパーティーに出席するのが通例のようだ。

 雪の関係や遠方の貴族はすでに王都入りしている場合もある。


 サムとって、スカイ王国で年を越すのは初めてであり、楽しみにしている。

 四年も一緒にいたウルが隣にいないのは寂しいことではあるが、彼女の縁のおかげで多くの人たちと出会えた。

 サムには、非常の濃密な数ヶ月となったのは言うまでもない。来年は少しのんびりしたい、と思っているが、子供も生まれることだし、きっと笑顔の絶えない慌ただしい日々になると思われる。


 宮廷魔法使いとしての仕事も最近はない。

 スカイ王国は、冬の間は基本的に雪が降る。

 最南端にあるサムの領地でも、吹雪くほどではないが、数センチの雪は積もるのだ。さらに夏は暑い。だが、この季節による温暖の差が、名産であるウイスキーを芳醇な味にしてくれるのだ。


「……それにしても、本格的に寒くなったと思ったら、雪が降るを通り越して、めちゃくちゃ吹雪くなんて。スカイ王国って意外と寒いんですね」


 魔道具のおかげで暖かい伯爵家の屋敷の中も、外が本格的に寒くなると冷えてくる。

 魔法とて万能ではないのだ。


「サムは寒いのが苦手ね」

「生まれ故郷も寒かったのでそれなりに我慢はできるんですけどね。友也なんて転移できるからって用事がない時は自分の所有する南の島でバカンスですよ」

「ふふふ。友也様らしいわ」


 ソファーで編み物をするリーゼの様子を伺いながら、サムは窓辺に立って外を見ている。

 少し強化して耳を澄ますと、城下町では雪などへっちゃらであると言わんばかりに子供の楽しそうな声と、いつも通りの街の人々の声、そして一部聴きたくない変態たちの雄叫びが聞こえる。


「昼間でもこれだけ寒いんですから、夜になったらどれだけ寒くなるやら」

「メルシーたちはお風呂を占拠中ですものね」

「ふやけてしまわないか心配なんですけどね」


 炎を司る赤竜である子竜三姉妹は、寒さが強くなるとお風呂に常に入っているようになってしまった。

 なんだかんだと甘いサムとアリシアも、お風呂で寝るようになったときにはさすがに注意したのだが、灼熱竜曰く、赤竜は寒さに得意ではないようで灼熱竜も温泉を見つけては冬の間浸っていたという。

 冬眠ではないようだが、とにかく暖かいのが好きらしい。

 竜の中には冬眠してしまう個体もいるようだ。

 しかし、メルシーたちもただ風呂場を占拠しているわけではない。誰かが入ってくると背中を洗ってくれるし、食事の時間になるとちゃんと食堂に来るので、よしとしている。


 一方で、青竜であり水や氷を司る青牙と青樹は寒さに強いようで、城下町の子供たちと一緒に雪合戦をしているらしい。

 最終的に青牙が集中砲火されてキレるようだが、翌日にも元気で雪合戦のようだ。

 サムも誘われたことがあり、一度は参加したが、二度とするかと誓っている。スカイ王国の子供たちは、相手が宮廷魔法使いだろうと魔王だろうと、竜だろうと容赦がない。友也とギュンターも参加したのだ、あっという間に雪だるまにされていた。


「年越しまでゆっくりまったりしていたいですねぇ」

「ふふふ。そうね」


 サムとリーゼが笑顔を浮かべた時だった。

 部屋をノックする音が響いた。

 リーゼが、入るように声をかけると、メイドが礼をして入ってくる。


「女神エヴァンジェリン・アラヒー様たちご一行が参られました」

「あ、ゆっくりまったりの時間が終わった気がする!」






 〜〜あとがき〜〜

 竜の里編。はじまりまります!


 コミック1巻、書籍1巻、2巻、よろしくお願い致します!



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