40「教皇が戻ってきたそうです」①
カリアン・シェーンは、年の瀬も迫る雪の日に、暖炉に火をつけて書類仕事に励んでいた。
神聖ディザイア国は、女神を信仰し、魔族の存在を否定しているため周辺諸国から、よくて変わった国、悪いと狂った国と言われることが多い。しかし、国に暮らす人々には、普通の生活もある。
「今年は雪が少ないので、凍える人が少ないことはいいことです」
神聖ディザイア国も、雪が少し降る程度には寒いのだが、例年の猛吹雪に比べれば今年はマシである。
同盟国、友好国が限られているので、決して裕福な国でもなく、部屋を暖かくする魔道具などまずない。
食糧も同様だ。
それでも、モンスターを狩り、日々の糧にしているため、飢えるものはまだ出ていない。餓死者が出れば、その瞬間、今まで以上に神聖ディザイア国は魔族を攻めるだろう。
だが、それも時間の問題であると思っている。
「新年の催しはなんとかできそうですね。騎士たちが頑張ってくれたおかげで、冬眠前のモンスターも大量に狩れましたので、冬の食糧には困らないでしょう。……はぁ。自分で送り出しておきながら、あれですが、マクナマラの不在が意外と響いてしまいましたね」
今まで、マクナマラが神聖ディザイア国で最もモンスターを狩る人材だった。
聖騎士の中でも頭ひとつ抜きん出ている実力の持ち主であるマクナマラの不在は、国を揺るがすほどではないが、調整面では影響が大きかった。
(――しかし、教皇があちらこちらを行き来し、不在にしている間にマクナマラをスカイ王国に送ることができたのはよかったですね。サミュエルくんの近くにいることで、戦いに巻き込まれる可能性はあるでしょうが、少なくともこちら側にいるよりいいでしょう。できれば、孤児院の子供たちもなんとかスカイ王国に送りたいのですが……枢機卿ゆえに私が動けば目立ってしまう)
実を言うと、カリアンはマクナマラを国から離したかった。
それは、ひとえに――女神などというくだらない存在に生涯を支える必要がない、とわかっているからだ。
カリアン・ショーンは敬虔な女神の信者であり、国中の誰もが尊敬し、敬愛する枢機卿――だが、実際は、カリアンは女神の存在を信じていなかった。
無理もない。
愛する妻は亡くなり、ひとりの娘は生き別れとなった。
女神がいるのなら、このような不幸が起きるはずがないのだ。
カリアンは、あくまでも神聖ディザイア国に生まれ育っただけであり、若かりし頃は国を捨てる予定だった。
しかし、国に留まり、枢機卿に上り詰めたのは、ひとえに愛する女性と一緒にいたかったからだ。
女神は信じていないが、国民のために身を粉にして働いてきた。
妻を亡くしてからは、妻の分まで国に尽くしている。
しかし、女神に尽くしているわけではない。
女神の存在を、枢機卿となり教皇と会ったことで「ああ、本当にいるのか」くらいにしか思わなかったし、女神の復活も『とある理由』から手伝っているだけだ。
自分の都合に娘を巻き込みたくはなかったし、いてもいなくても変わらない女神に尽くさせる必要もない。
どうしたものかと悩んでいたところ、生き別れていた娘の生存と、孫が産まれていることを知る。
孫のサミュエル・シャイトが魔王に至っていることや、レプシー・ダニエルズを倒したことには驚いたが、父親が王族であることや、妻が伯爵家令嬢と王女であることから、マクナマラを保護してもらうにはちょうどいいと思ったのは言うまでもない。
――遠藤友也の存在だけは、想定外だったが。
(きっと妻は私の行動を嘆くでしょう。しかし、あなたを失ってから、私はその瞬間だけを願って生きているのです)
机に飾ってある亡き妻の絵姿を眺めると、カリアンは泣きそうな顔をした。
しかし、彼の顔から表情が消えた。
「――どうやら時間のようです」
カリアンの預かる大聖堂に、覚えのある聖力が現れた。
――教皇が戻ってきたのだ。
〜〜あとがき〜〜
カリアンサイドにも触れます。
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