間話「お留守番のアリシアです」
アリシア・シャイトは生き物が好きだ。
きっかけは庭に迷い込んできた子猫を拾ったことだった。
気弱なアリシアは家族に言えず、内緒ひとりでこっそり育てていたことがある。
だが、次第にひとりでは限界を感じ、頼ったのが亡き姉ウルだった。
その後、ウルが両親に話すきっかけをくれて、アリシアは堂々と子猫を飼うことができた。
その出来事をきっかけに、アリシアは動物が好きであると自覚し、引っ込み思案だった娘のためにと父ジョナサンがさまざまな動物をどこからか引き取ってきてくれた。
気づくとウォーカー伯爵家の一角には、動物たち専用の住まいがあり、屋敷の中にも専用部屋がある。
動物たちの間でアリシアは人気なのか、飼い主のいない野良猫、野良犬をはじめ動物たちが自分からやってきては、手厚く保護されている。
城下町で有名であった危険な野犬も、アリシアを前にすると従順なワンちゃんとなった。
動物たちに囲まれ、植物を育て、読書が好き。
そんなアリシアに変化が訪れたのは、数ヶ月前の出来事だった。
ふらり、と王都に現れた姉ウルの弟子サミュエル・シャイト。
一緒に暮らすようになったサムを、最初こそ弟のように思っていたが、一緒に動物の世話、植物を手入れ、本の感想を言い合うことなどをしていると、アリシアは恋に落ちた。
そして、紆余曲折あったが結ばれ、現在は妻となった。
さらに、サムは竜と知り合い、竜の子供を家に招いてくれた。
アリシアが大興奮したのは言うまでもないだろう。
子竜三姉妹を心から愛し、甲斐甲斐しく世話を焼き、長女にメルシーと名付けもした。
しばらくすると、お散歩と称して子竜の背中に乗って王都の空を飛ぶようにもなった。
さらに、サムは獅子族の獣人ボーウッド、狼族であり魔王ロボと出会い、アリシアも自然と仲良くなった。
物語にしか出てこないと思っていた、ドワーフ、人魚とも知り合い、嬉しそうにアリシアに教えてくれた。
――サム様と出会えて本当に幸せですわ。
アリシアは毎日、愛しい夫との出会いに感謝している。
だが、不満もある。
「はぁ……わたくしも、ロボちゃんのもふもふ王国の住民さんとお会いしたかったですわ」
「……アリシアママ。ロボの国は獣の国で、もふもふ王国じゃないよ?」
暖かい部屋で編み物をしているアリシアが、顔を上げて窓の外を見て呟くと、人型のメルシーがなんとも言えない顔をしてツッコミを入れた。
「わかっていますわ。ですが、お聞きすればロボちゃんのように人に近い方よりも、ボーウッド様のように外見は動物に近いお方が多いとのこと。もふりたい放題ではありませんか?」
「うーん。同意なら、いいんじゃないかな」
「もちろん、無理やりなんてはしたないことは致しません。わたくしは、ギュンターではないのですから!」
「あの変態紳士は、サムパパのお尻をモミモミするもんね!」
「……サム様のお尻が素晴らしいものであることは否定しませんが」
「否定しないんだー」
ベッドにごろんと寝転んでいるメルシーが苦笑いを浮かべている。
アリシアの動物好きは、メルシーはよく知っていた。
メルシーたち子竜三姉妹につきっきりだったとき、他の動物たちが「アリシアを取り戻せ!」と挑んできたことがある。
アリシアは分け隔てなく愛情を注いでいたようだが、他の動物たちからすると少々メルシーたちは贔屓されているように見えたようだ。
現在は、メルシーたちは動物たちと和解し、上下関係をしっかりつくっているので問題はなくなったが、もしサムが獣人たちを連れて帰ってきたら間違いなく大変なことになるだろう、とメルシーは考えた。
「個人的にはロボちゃんはずっと孤独でしたので、わたくしたち以外の方々と仲良くしてほしいのです」
「アリシアママ」
「かつてわたくしも人付き合いは苦手でした。ですが、サム様と出会い、メルシーちゃんたちと出会い、多くの方々と仲良くなれました。ロボちゃんにも、わたくしのように良き出会いを経験してほしいのです」
アリシア・シャイト。
生き物好きで、心優しい少女だった。
〜〜あとがき〜〜
その頃、サムは。
「かーえーれー! 帰れよー!」
獣人たちを拒否っていました。
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