18「獣人たちの事情です」③





 平伏していた獣人たちが、全員顔を上げた。彼らには驚愕の表情が張り付いている。

 絶対的強者だと思っていたロボが敗北していることを、たとえ本人の口からであったとしても信じられないのだろう。


「まさか、王が!?」

「そこのサムに負けたぞ」

「ちょ、ここで俺を巻き込まないでよ!」


 ロボがサムを指差すと、獣人たちの視線が集まった。


(うわぁ。本来なら獣人さんたちと戯れたいとか思うんだけど、微妙な顔をされているとそういう気も起きねー。きっとアリシアなら、ここから全員の腹を撫でるくらいのことをしてみせるんだろうけど、俺には無理です!)


 胡散臭そうに獣人たちに見られているサムだが、目の前にいて力量も測れないのならその程度の奴らなんだと思う。

 いくつかの選択肢の中で、獣人たちをシャイト領で受け入れる可能性もあったが、こういう奴らは受け入れたくないと結論に至った。


「最初に言っておくけど、もし俺と力試ししたいとかいうのなら、俺を殺すか俺に殺されるかの二択だから覚悟して口を開くように」


 魔力を放出して圧を込めると、獣人たちはサムに挑む気概もなく、かといってプライドもあるのかロボに対するように平伏はしなかった。

 おそらく人間の成人したての子供に頭を下げたくなかったのだろう。

 プライドがあるのなら、ボーウッドのようにロボに挑めばよかったのに、と鼻で笑ってやる。

 一部の獣人が、サムの態度を馬鹿にされたのだとわかったのだろう、睨もうと顔を上げたが、サムと目と合い、再び顔を伏せてしまう。


 しばらく沈黙が続いたが、先頭にいた獣人が一歩前に出た。

 獣人は、老いた様子の隻腕の狼系獣人だった。


「王よ。王が不在の間に、いくつかの種族が獣の国を我がものにしようとしています。獣の国は、魔王ロボ様のための国です。どうか、国に戻って、反逆者たちを血祭りにし、王として再び君臨してください」

「知るか」


 隻腕の獣人に対し、ロボの言葉はあまりにもそっけないものだった。

 絶句する獣人たち。

 サムと友也はあくまでもスカイ王国に問題を持ち込まないようにするためこの場に来ているが、獣人たちに興味があるかと問われたら、今、ここにいる彼らにはない。

 ゾーイも同様のようで、沈黙を貫いている。

 ボーウッドだけが、かつてロボに挑んで敗れた身として、獣人たちをなんとも言えない顔をして見ていた。


「お、王よ」

「勘違いをしているようだが、面倒臭いが説明してやる。俺は、お前たちの王にはなっていない。お前たちが勝手に集まり、崇めていただけだ。俺は洞窟でずっと寝ていただけで、国に入ったことさえない。お前たちの顔も名前もよくしらん。そんな俺に何をしろと言うのだ?」


 獣人は強い者に従う種族だが、ロボはそうではない。

 そう言う意味では、ロボはもちろん、ボーウッドも変わっているのだろう。


「ならば、私たちはどうすればいいのですか!?」

「だから知るかと……いや、そうだ。いいことを思いついた。ボーウッド、お前が獣の王になれ」

「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ロボの無茶振りに、ボーウッドが叫んだ。





 〜〜あとがき〜〜

 ちょっと体調不良のためのんびりお話を進めております。

 コミック1巻を何卒よろしくお願い致します!

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