6「ヴァルザードと戦います」②





 サムの一撃は、空から降り注ぐ炎を全て斬り裂くことに成功した。

 追撃を恐れてヴァルザードに視線を向けると、彼は魔力を使い果たしたようで、その場に崩れ落ちた。


「――ヴァルザード!」


 誰よりも早くエリカが駆け寄り、彼を抱き抱える。

 ギュンターがヴァルザードの口元に手を当て、呼吸を確かめ、心音、脈を確認する。


「おそらく、魔力を使い果たして気絶したのだろうね。それにしても、魔王級だとは聞いていたが不安定ながらこれだけの力を持つとは……」

「言いたくはありませんが、単純な力量では現在の魔王と十分戦えるでしょう。経験が浅いので勝敗はさておきますが、危険です」


 友也はヴァルザードを危険視しているようだ。

 彼の内面までわかりかねるが、ヴァルザードを今のうちに始末するなどと考えていないことをサムは祈った。


「あまり怖い顔をしなさんな、魔王様」

「……ボーウッドくん」

「子供が癇癪を起こしただけの話だけでさぁ」

「それで済ませる気ですか?」

「もう少し見守ってあげましょうや。大人がここで危険だから、という理由だけで放り投げてしまうのは違う」

「……いいでしょう。幸いなことに、今のヴァルザードくんなら僕でも問題なく殺せます。ならば、いつでも殺せると言うことですからね。とりあえず、エリカ・ウォーカーくんをはじめヴァルザードの周囲の大人たちに期待しましょう」

「理解がある魔王様でなによりでさぁ。――感謝します」


 ボーウッドの言葉を受け、友也は肩の力を抜いた。

 ことの成り行きを見守っていたサムたちも同じように肩の力を抜く。

 子供の癇癪というには少々過激ではあるが、ボーウッドの言うようにヴァルザードは子供だ。見てくれこそ青年だが、中身は純真無垢な子供なのだ。


「う、うう」

「ヴァルザード!」


 ゆっくり目を開けたヴァルザードは、エリカの顔を見てから、周囲を見て、自分のしたことを思い出したようにはっとする。

 そして、ボロボロ涙を溢れさせた。


「ごめんなさい」


 嗚咽を溢し、ヴァルザードは泣きながら謝罪した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、なさい」

「いいの! もういいの! 謝らないで、大事にならなかったから謝らなくていいの!」


 エリカが全力でヴァルザードの身体を抱き締める。

 味方はいるのだと、あなたを愛している人間がここにいるのだと教えるように。


「僕たちこそ申し訳なかった、ヴァルザード。君があまりにもいい子だから、僕たちは君の抱えている感情に気づいてあげられなかった。本当に、申し訳ない」

「俺もだ。勝手に兄貴ヅラしていたのに、ヴァルザードの苦しみに気づいてやれなかった。すまない」


 ギュンターとボーウッドもヴァルザードの傍にしゃがみ、彼の手を握りしめた。

 この場に誰ひとりとしてヴァルザードを責める者はいない。

 そのことをどう感じたのか、サムにはわからなかったが、ヴァルザードは涙を再び溢れさせた。






 〜〜あとがき〜〜

 マイムくんは顔面が陥没していましたが、竜王様の回復魔法でさくっと治りました。

 その後、捕縛。簀巻きにして連行です。

 ジョナサンパパはお家を壊さなかったヴァルザードくんに拍手喝采!


 コミック1巻発売中です!

 何卒よろしくお願い致します!

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