間話「俺の奢りです!」
成人を迎えたサミュエル・シャイトは冒険者として、いいや、異世界に転生した男の子としてどうしてもやってみたいことがあった。
その日、友人であるギュンター、遠藤友也、ボーウッド、玉兎を連れて酒場に現れたサムたちを見て、店員も客も驚いた顔をした。
それもそのはず。普段は知り合いの店で飲むことが多いサムたちが、冒険者が集まる酒屋に訪れることは珍しい。とくにギュンターは次期公爵ということもあり、あまりこういう場所には足を運ばない。
スカイ王国では、知らない人間がいないサムとギュンターと遠藤友也が連れだって現れたのだ。
どんな変態なことが起きるのか、客も店員も固唾を吞んで見守っていた。
視線が集まる中、店員にビールを注文したサムは、ジョッキを掲げ叫んだ。
「――今日は俺の奢りだ!」
しばらくポカンとしていた客たちが、サムの言葉の意味を理解して歓声を上げる。
次々に注文される、酒、食事。
店員は忙しそうに動き、客も次から次へ集まってくる。
テーブルをひとつ確保して、円になって腰を下ろした。
「ふふふ。まさかサムのしてみたいことが、冒険者たちに奢る、とは。誘われたときにはついにこの時が来たかと思って新品のパンツを履いてきたのだが……これはこれでいいものだね」
「サムの気持ちはわかります。僕も昔、やりました」
「兄貴、ごちそうさまです!」
「悪いな、サム! 浴びるほど飲むぜ!」
少々の勘違いをしていたギュンターもみんなに合わせてビールを飲む。
友也は懐かしみながらビールジョッキを掲げた。
ボーウッドと玉兎は嬉しそうに、勢いよくビールを飲む。
「ヴァルザードも誘いたかったんだけどね」
「エリカが過保護だからね」
「まさか冒険者と一緒に一杯を不良がすることなんて言われるなんて思わなかったよ」
ヴァルザードも誘おうとしたのだが、エリカが絶対に駄目と言って許してくれなかった。
冒険者のような荒くれ者たちと酒を飲んで何をされるか、と心配らしい。
いずれ彼女も結婚し、子供と過ごす日々が訪れるだろう。きっと教育熱心な母親になるに違いない。
「んじゃ、ここにいないヴァルザードくんが今度一緒に来れますように! 乾杯!」
サムたちはジョッキを掲げた。
そんな時だった。
「タダ酒が飲めると聞いて参上した! 店主、ビールを樽で!」
サムの伯母マクナマラが仕事終わりに一杯を飲みにきた。
「……樽って」
どれだけ飲めるのだ、と唖然とするサムだったが、店員も客もいつものことのようで「へい、喜んで!」と言って、樽を数人で担いでくる。
「おおっ、サミュエルではないか!」
「どうも」
「お前が酒を奢ってくれる貴族様だったのか! 仕事終わりに部下から教えてもらってな。すっ飛んできたぞ!」
「あはははは。男の子ですから、こういうことをしてみたかったんです」
「なるほどなるほど。気持ちはわかるぞ。うん。では、馳走になる!」
「飲むのはいいんですけど、無茶しないでくださいね。身体は大事なんですから」
いくらマクナマラが酒豪でも限度があるだろう、と心配すると、きょとん、とした顔をされた。
「なにを言っている、サミュエル?」
「へ?」
「ビールは水だ」
「嘘ぉ」
この日、マクナマラは飲んだ。飲みまくった。
酒に強いと自負していた赤竜玉兎でさえ酔いつぶした。
マクナマラもすっかりスカイ王国の民になっていたことを確認し、サムは苦笑する。
できることなら、この場に祖父もいたらよかった、と思う。
「スカイ王国に、この世界に乾杯!」
――余談だが。
領収書を見たサムは一瞬で酔いが醒めた。
〜〜あとがき〜〜
ちょっと小話でした。
まさかこの時、マクナマラさんの噂を聞きつけてドワーフたちが集まってくるとは夢にも思わないサムでした。
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