間話「子竜たちのお名前です」①
「――お名前会議を始めますわ!」
アリシアはウォーカー伯爵家の食堂で緊急会議を開いた。
参加者は、サム、リーゼ、ステラ、ギュンター、クライド。そして灼熱竜と玉兎だった。
「メルシーちゃんにお名前をつけてから、他の子たちがお名前をほしいとおねだりしてきました。しかし、わたくしたちが勝手に名前をつけていいものかと悩み、保留にしてきたのですが……ついに次女ちゃんと三女ちゃんに限界が訪れてしまいました。その結果、ストライキです!」
「あの」
「はい、サム様、どうぞ!」
「ストライキってなにをストライキしたんですか?」
「わたくしやステラ様を乗せてくださらなくなったのです!」
内心、しょーもな、と思ってしまったが、子竜三姉妹を実に妹同然に、いや、娘のように可愛いがり、日課のように空中散歩するアリシアには大事件だったようだ。
ちょうどよく、子竜たちの両親も戻ってきている。
子竜たちも、今がチャンスだと思ったのだろう。
「ねえ、アリシア」
「なんですの、リーゼお姉様?」
「メルシーまでストライキをしてしまったの?」
「いえ、メルシーちゃんはストライキをしているわけではないのですが、大きくなり過ぎてしまったので身重では少々乗れないのです。それに、メルシーちゃんは人の姿で過ごすのが楽しいようで、わたくしとしても見守ってあげたいのですわ」
メルシーはまだ子竜ではあるが、大きく進化している。
それは名を得て、人の姿になることができたことがきっかけだ。
今では、大きな竜としての肉体に進化している。
サムはメルシーの背に乗せてもらったが、物語に出てくる竜騎士になったようで高揚感に満たされたのを覚えている。
「本来ならば、みんなでお名前を考えてあげたかったのですが、まずは普段特別仲がいい皆様にお名前を考えていただき、他の方にもご意見を聞いた上で、最終的に子竜ちゃんたちに……という流れはいかがでしょうか?」
「異論はない」
灼熱竜が賛成する。
「アリシア。我が娘たちのことを考えてくれていることに心から感謝する」
「そんな。子竜ちゃんたちも、灼熱竜様もご家族ですもの」
「……ありがとう。しかし、疑問もある」
「なんでしょうか?」
灼熱竜はぐるり、と食堂を見渡した。
「サムと……ギュンターはわかる。我と出会い、子竜を助けてくれたのふたりだ。リーゼとステラも娘たちをよくしてもらっていると知っている。特にリーゼは、しつけの方もしてくれているようで、感謝しかない。だが、クライドと玉兎はいらぬだろう?」
ちらり、とウォーカー伯爵家の食堂で、我が家のように茶を飲むクライドと、娘の名付けという大意イベントに緊張している玉兎に、灼熱竜は冷たい視線を向ける。
「クライド様は、子竜ちゃんたちと仲がいいのですよ! こっそり高級なご飯をあげているのはあまりよろしいとは言えませんが……」
「ははははは。アリシアよ。子供は少しくらい甘くしてやったほうがいいのだ」
「そうおっしゃるのでわたくしもうるさく言わないことにしております」
「そうだったのか。娘たちが世話になっているな」
「構わぬ。子竜たちも我が国の大事な民ゆえ」
クライドがいる理由を灼熱竜は理解し、納得した。
だが、玉兎に関してはアリシアも困った顔をしている。
「あの、大変申し訳ございませんが、玉兎様は……お呼びしていませんでした」
「ひどい! 娘の一大イベントなんだから、パパも参加したい!」
どうやら玉兎は勝手会議に参加しているようだった。
〜〜あとがき〜〜
ついに決まる、次女と三女のお名前!
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