間話「子竜たちのお名前です」②




 しくしく泣き始めた玉兎を無視して会議が続く。

 まず、挙手してから話を始めたのはサムだった。


「えっとさ、灼熱竜の名前っていうか、竜ってエヴァンジェリンを除くと姿にちなんだ名前だよね?」

「うむ」


 頷く灼熱竜こそ立花という灼熱色の鱗とは違う名だが、竜王炎樹は赤竜、青樹は青竜、青牙は青竜というように漢字名だ。

 対し、エヴァンジェリンやメルシーは、サムたちに近い名前だった。


「どっちにする?」

「竜王様たちのような名前を妹たちにつけてしまうと、メルシーだけが違うと拗ねないかしら?」


 リーゼの言葉に一同がうーん、と唸る。

 メルシーはおおらかな性格なので、些細なことは気にしないところもあるが、ときどきそんなことをこだわるのかというところを気にすることもある。

 子供なんてそんなもんだと言われてしまうとそれまでなのだが、三姉妹でひとりだけ名前が竜よりではないというのはどうなのだろうか。


「長女がメルシーなんだから、次女がヘルシー、三女がモルシーなんていうのはどうだ?」

「ネーミングセンスどころか、名前の大事さがわからない方はお黙りください!」

「――はい。申し訳ございませんでした」


 適当な名前を挙げた玉兎が、アリシアに叱責され小さくなった。

 サムもさすがにヘルシーはないだろう、と思う。


「一応、言っておきますが、子竜ちゃんたちのお名前で笑いを取ろうとした方はエヴァンジェリン様に呪っていただきます」


 アリシアが釘を刺すと、挙手しようとしていたクライドがそっと手を下げる。

 きっとお馬鹿なことを言おうとしていたのだろう。


「本人たちはなんと言っているのかね?」


 ギュンターの問いに、ステラが困った顔をして返事する。


「任せてくださるとのことです。素敵なお名前を考えてほしいと言っていました」

「ふむ。素敵な名前か。あの子たちは可愛い子たちだからね、ふさわしい名前をつけてあげるのが僕たち大人の役目だ」

「なにかいいお名前がありますか?」

「少し待ちたまえ」


 ギュンターが懐から手帳を出すと、ペラペラめくり出す。


「ギュンターそれって?」

「最近、名前を考えているのだよ」

「――お前、まさか子供の」

「違う! 違うよ、サム! 僕が生まれてくる子の名前をウキウキしながら考えているような男だと思ってもらいたくないね! ええい、お前たちによによするな!」


 ちゃんと父親としての自覚が芽生えているようで、サムたちはにっこり。

 クリーの調教のおかげか、素直ではないがギュンターもなんだかんだで子供が楽しみのようだ。


「その話は忘れたまえ。僕がいくつか考えた名前の中に素敵な名前がある。メルシーくんと少し似ているが、トレイシー、ユーリー、ルーシーなどはいかがだろうか?」

「お前がどんな顔をしてその名前を考えたのかも気になるけど、いい名前だと思うよ」

「待てい!」

「なんすか、クライド様」

「私の考えている名前も聞いてほしい」

「ビン子とかなしですよ」

「…………無論、そのような名など考えたことはない」

「なんか間があった気がするんだけどなぁ」


 とりあえず聞いてみることにした。


「チェルシー、ケイリー、アーリーなどはどうだろうか? 実を言うと、ステラたちの名前を考えたとき、いくつか候補があってね。最終的に赤子を見てから決めたのだが、その時の名だ。悪くない名前だと思うので、よければ考えてみてくれ」


 思いがけずステラを名づける時の話を聞けて、ステラは嬉しそうだった。


「アリシアはなにかいい名前を考えていないの?」

「わたくしはメルシーちゃんのお名前を決めたので、他の皆様が考えたお名前のほうがよいのではないかと思いますわ。灼熱竜様を差し置いてわたくしばかりが名付けてしまうのもどうかと思いまして」

「我はあまり気にしないが……。そうだな。ルーシーやアーリーは響きがいいと思う。しかし、変態どもの考えた名前を娘に授けていいものかと悩むところだ」

「ひどい!」

「泣いてしまうのである!」


 ギュンターとクライドが泣くが、一同はスルーした。


「こうしたらどうかしら?」


 リーゼが提案したのは、各自「これだ!」という名前を紙に書く。

 そして誰が書いたのか知らせないまま、姉妹に選んでもらうというものだった。


「……そんなクジみたいに」


 と、サムはちょっと躊躇ったのだが、貴族などの子供に対して名付けをしたがる親族が多い場合は、クジを引いて決めることもあるらしい。

 ちゃんと次女と三女に選ばせること。なによりも、みんながあの子たちを想い、名を考えること、という条件で決まった。




 そして、本人たちが選んだ結果。


 次女がルーシーを。

 三女がアーリーを選んだ。


 ギュンターとクライドがガッツポーズしたのは言うまでもない。

 灼熱竜が恐る恐る「変態が考えた名前だがいいのか?」と尋ねるも、ふたりはそんなこと関係なく、気に入ったようできゅるきゅる嬉しそうに鳴いた。


 こうして子竜三姉妹の名前が決まった。






 ――後日。

 誰の名前が一番素敵かで姉妹が大喧嘩して、ウォーカー伯爵家の一角を壊してしまうのはまた別の話。





 〜〜あとがき〜〜

 お名前が決まりました!

 コミック1巻好評発売中です!

 何卒よろしくお願い致します!

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