間話「夫婦の帰還です」





 その日、ウォーカー伯爵家の中庭で身体を動かしていたサム、ギュンター、友也、ヴァルザード、エリカの五人の前に、赤髪の逞しい大男が手を振って現れた。


「おーい! 久しぶりだなー!」


 革の衣服に身を包んだ男に、一瞬、サムたちは「誰?」と首を傾げたが、彼の独自の魔力と男の隣に見覚えのある女性がいることで、すぐに思い出す。


「玉兎と灼熱竜じゃん!?」


 男は次期竜王候補の赤竜玉兎と、女性が灼熱竜立花だった。

 ウォーカー伯爵家でのんびり暮らしているメルシーが長女の子竜三姉妹の両親である。


「ずーっと見なかったなぁ」

「ははははは、悪い悪い!」

「すまんな、サム。夫といろいろ話すことがあってな。久しぶりの夫婦の時間を過ごしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった」

「よく考えれば、竜と人間だと時間の感覚が違うんだよな。ついつい新婚のときのようにのんびりしちまったよ」

「お、おい、そのように言うことではないだろう!」

「はははははは、照れるな照れるな!」


 灼熱竜の肩を抱く玉兎。

 ヴァルザードだけが、玉兎を知らずにぽかんとしていたが、エリカが耳打ちして教えたようで、へぇ、と興味深そうにしていた。


「……マイフレンド玉兎くん」

「おう、ギュンターじゃねえか。元気だったか?」

「ぼ、僕は相変わらずだが……君は、その妻にいろいろされたのだろう? 灼熱竜くんはクリーママ直伝のあれこれを教わったと言っていたじゃないか? しかし、君からは悲壮感もなにもない……まさか責められるのが好きなのかい!?


 ゾンビのように身体を揺らしたギュンターが、玉兎の肩を掴む。


「あー」


 サムはいろいろ察した。

 玉兎と喧嘩をした後、灼熱竜が夫婦の時間だと言い連れていく際、クリーからいろいろ教わったと言っていたことを思い出す。

 ギュンターは、クリーの手のひらの上で踊る日々だ。きっと玉兎も灼熱竜に同じような目に遭わされているのだと信じて疑っていなかったらしい。

 しかし、蓋を開けてみると仲睦まじいふたりの姿があったのだから、いろいろ納得できないようだ。


「何言ってんだ、ギュンター? 俺と立花は避暑地でイチャイチャしていただけだぜ?」

「なん、だと?」


 信じられない、とギュンターがわなわな震え出す。

 彼の顔は今にも泣きそうだ。

 ギュンターは縋るように灼熱竜を見た。


「灼熱竜くん……君はクリーママからあれこれ学んだと言っていたはずだが?」

「うむ。クリー殿には、夫を尻に敷くのではなく、時に尽くし、甲斐甲斐しく接し、ちょっとおねだりするやり方や、飴と鞭など様々なことを学ばせていただいた。夫のお前から礼を言っておいてくれ。無論、後日、直接礼に行かせていただく」


 灼熱竜が「殿」をつけて名を呼ぶのはクリー以外にはいないだろう。

 竜でさえ敬意を払う少女クリーの名はきっと後世にまで轟くのだろう。

 しかし、納得いかないのはギュンターだ。


「なにが飴と鞭だ……あの小娘め。僕は鞭と鎖と鉄球だというのに!」


 涙を流す変態に、サムが恐る恐る訪ねた。


「……お前は普段からクリーに何されちゃっているの!?」

「聞いてくれるのかい?」

「ごめん、なしで!」

「ひどいっ!」


 深淵を覗き込みたくなかったサムは、聞いて欲しそうな顔をしているギュンターから逃げ出した。

 こうして玉兎と灼熱竜はスカイ王都に戻ってきた。――が、次の瞬間、屋敷から飛び出してきた子竜三姉妹に玉兎がボコボコにされるのはまた別のお話。





 〜〜あとがき〜〜

 ようやく帰ってきた竜の夫婦。

 ずぅううううっとイチャコラしておりました。

 ちなみにクリーさんは本当にちゃんとしたアドバイスを灼熱竜にしたので、玉兎さんは無事でした。


 本日、コミックウォーカー様にて最新話更新です!

 コミック1巻も発売中です!

 何卒よろしくお願い致します!

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