間話「マクナマラさんとエヴァンジェリンさんです」


 ■――マクナマラさん頑張る。




 マクナマラ・ショーンがスカイ王国で生活を始めて少し立ったが、本人が驚くほど馴染んでいた。

 まるで生まれも育ちもスカイ王国ではないか、と本人含め周囲が疑問に思うほどである。


 日中は、女神エヴァンジェリンを守護する護衛騎士の隊長として働き、夜は同僚やエヴァンジェリン、聖女霧島薫子を誘って全員が酔い潰れるまで飲み、宿舎に戻って眠る。


 ――とても充実した日々だ。


 エヴァンジェリンからは「勘弁してくれ、毎日二日酔いだ」と青い顔をされ、薫子からは「お酒にだんだん慣れてきちゃった自分が怖い」といろいろ葛藤させている。

 酔い潰した部下からは「姉御!」と慕われている。


 神聖ディザイア国の暮らしが悪かったか、と問われるとマクナマラは悩むことなく「否」と答えるだろう。

 聖女と枢機卿の娘であり、聖騎士のひとりとして民から尊敬されて生きていた。民のために戦い、魔族をモンスターを倒す日々。休みの日は、周囲の手本になるように鍛錬をする。そんな日々だ。

 悪くはなかったが、充実していたかと問われると悩ましい。

 友人はいたが、心に距離がどうしてもできてしまう。

 当たり前だが、伴侶はもちろん、恋人もいない。


 しかし、スカイ王国で生活をしてから、マクナマラの生活は一変した。

 聖女と枢機卿の娘という色眼鏡で見られることはなく、だからと言って客扱いされることもない。

 ひとりで飲み屋に入っても、客たちと楽しく飲めるし、使いで外に出れば顔見知りとなった人たちが気さくに声をかけてくれる。


 神聖ディザイア国と比べて、スカイ王国の一番の違いは――人々の暖かさだ。


 故郷の人々が冷たいというわけではない。しかし、故郷では「マクナマラ様」と呼ばれ、頭を下げられる日々だった。対してスカイ王国では「マクナマラさん」と呼ばれ、笑顔を向けられる。

 これは、小さいようで大きいことだった。


「よし! 今日も一日頑張るぞ!」


 スカイ王国には、生き別れていた妹がいる。

 可愛い姪っ子も、甥っ子もいる。

 変態魔王とはいずれ決着をつけなければならないが、それもひとつの楽しみだ。


 マクナマラ・ショーンは今日もスカイ王国で元気だった。






 ■――エヴァンジェリン・アラヒーの憂鬱。





「なんかもう引きこもりてぇ」


 魔王にして、竜王の娘であるエヴァンジェリン・アラヒーはゴスロリファッションに身を包んだ、濃いめの化粧を施した少女だ。

 その外見に反し、戦わせたら大陸で上から数えたほうが早いほど強くもある。

 そんなエヴァンジェリンが、疲れた顔をしている。

 その理由はもちろん、スカイ王国の民にあった。


「最初はさぁ。女神なんて崇めてくれるから気持ちよかったんだけどぉ」


 ギュンター・イグナーツを女体化したのをきっかけに、女神として祀られるようになったが、スカイ王国の民は女神を崇めると同時に「私も女体化を!」「私は男になりたい!」という性別に関する悩みから「痛みを倍に感じたい!」「妻を幼女に!」「夫を男の子に!」と悩める夫婦の世話までする始末。

 すべて放り出したいこともあるが、時には変態的ではない悩みが来るため女神業を疎かにもできない。

 エヴァンジェリンは根が真面目なのだ。


「最近じゃ、ママ目当てに男どもが群がるし、青牙は魔法少女の訓練を受けているし、青樹は孤児院で少年少女を可愛がりまくっているし、竜の里の老害ども! はやくこいつら回収に来い!」


 最初こそ、家族と和解し、一緒に過ごす日々が楽しかったが、もうお腹いっぱいになった。

 少しくらい離れているほうがちょうどいいと思う。

 なによりもエヴァンジェリンが、最近面倒だと思うのが、


「――女神様。ロボをそろそろデートに誘うべきでしょうか?」

「マクナマラさんと、今後どのような関係を築くべきでしょうか?」


 獣人ボーウッドと、同僚の変態魔王がガチめの相談をしてくるのだ。

 しかも毎日毎日。

 最初は親身になって話を聞いていたのだが、結局のところふたりは一歩を踏み出す勇気がないだけだ。その言い訳を聞かされるこちらは溜まったものではない。


「はぁ……こっちは一歩を踏み出したいのに、ダーリンにアプローチする暇さえねぇ」


 大きく嘆息するエヴァンジェリン。

 彼女は今日も女神業を頑張るのだった。






 〜〜あとがき〜〜

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