エピローグ「教皇が動き出します」
神聖ディザイア国。
カリアン・ショーンの執務室に、ひとりの青年――教皇が訪れていた。
「これはこれは教皇様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カリアンが恭しく礼をすると、教皇は軽く手を上げて応じる。
「急にすまないね。カリアンは、僕が元魔王や魔族を利用していることは知っているね?」
「もちろんです。先日、魔王遠藤友也たちと邂逅したときも、元魔王を利用した実験の最中でしたね」
「うん。実は、君に隠していたことがあるんだ」
「……他にも魔王を?」
「やっぱりわかってしまうよね」
この話の流れなら、よほど察しが悪くなければ思いつくだろう。
「元魔王の大半は殺されているが、生き残っている者もいる。中には放置できない強い魔族もいるが、一番狂った元魔王オクタビア・サリナスをもう何年も手元においている」
「……文献でオクタビア・サリナスに関しては読んだことがあります。禁忌に恐れず触れる方だと」
「そうだね。元は研究熱心な魔法学者だったのだけど。まあ、それはいいよ。きっと君はよく思わないと思うが、僕はオクタビア・サリナスを利用して兵器を作っていたんだ」
「兵器?」
「――人造魔王だよ」
教皇の告白に、カリアンはあまり驚いた顔をしなかった。
「魔族を利用する以上、魔王関連にも手をお出しすると思っていました。いやはや、魔王を作るという発想は驚きましたが」
「ふふふ。お見通しか。カリアンには敵わないな」
「造っていたんだとおっしゃりましたが、結果は?」
「もちろん成功だよ。僕の血も入れることによって、至らずとも現魔王たちと変わらない性能を持っている」
「素晴らしいことです」
「しかも、五人いるんだ」
「……それは、なんといいますか、驚きました。すでに兵器として使用するおつもりでしょうか?」
「まだ早いかな。性能はさておき、精神面がまだ子供なんだ。おまけに、一体逃げられてしまってね。一番性能がよかっただけに残念だ」
「放っておいてよろしいのでしょうか?」
「居場所はわかっているから平気さ。――スカイ王国にいるよ。サミュエル・シャイトたちに保護されている」
「おや。まさかサミュエルくんたちですか」
「君の孫はやはり危ういね。一度敵対しておきながら、受け入れてしまえる懐の深さ……僕にはないね」
本題だが、と教皇はカリアンに続ける。
「戦いの準備を始めたいと思う。僕は、戦闘用に、本来の力を取り戻すために調整に入ろうと思う。だが、しばらく動けなくなる。その間は、普通に暮らしていて構わない」
「戦闘用に? なにかありましたか?」
カリアンの問いかけに、教皇は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「スカイ王国の変態にいいようにされてしまったよ。いくら戦闘面に調整していなかったとはいえ、あのような者に……ひどく屈辱だ」
スカイ王国の変態と聞き、カリアンは「どの変態でしょう?」と悩む。
彼の知る限り、スカイ王国は変態だらけだった。
「教皇様がしばらくお隠れになるのは承知しましたが、女神様に関してはどうしましょう?」
「ああ、それなら問題ない。四人の聖女はすべて見つけてある。そして封印の場所も見つけた」
「――なんと」
「まったく、参ったものさ。巧妙に隠されていたよ。まさかレプシー・ダニエルズが、封印を隠す結界として機能していたとは思わなかった」
「――まさか」
「そうだよ。女神はスカイ王国に封印されている」
カリアンは疑問を抱いた。
一度、調べたときスカイ王国に女神はいないと判断されているのだから。
「疑問はもちろんだ。世界中をしらみつぶしに探し、魔王ヴィヴィアン・クラクストンズの夜の国だけとなった。しかし、始まりの魔王が女神を封印しているのはあからさまだ。そこで改めて次点に怪しいスカイ王国を調べ直したところ、見つけたよ」
「素晴らしいことです。お疲れ様でした」
「はははは。まだ気が早いさ。本音を言えば、すぐに女神様を解放したいが、力が足りない。神聖ディザイア国は女神様のものだからね。国民をスカイ王国にはぶつけることができない。だが、君たちと僕ならば、スカイ王国くらい問題ではない。しかし、厄介なことにスカイ王国には魔王と竜がいる。だから万全に整えてからにしたい。その後に、人造魔王も使えるようにするからね」
「承知いたしました」
「すまないが、女神様に関しては他言無用で頼むよ。先走られても困るからね」
「かしこまりました」
「しかし、時間はある。その間に、君の娘や孫を呼び寄せるといい。ただし、サミュエル・シャイトだけはだめだ。彼は殺す」
「――はい。残念ですが、巡り合わせがわるかったのでしょう」
「君に手をくだせなどとは言わないよ。彼は僕が殺そう」
教皇が直々にサムを相手にすることが、カリアンへの配慮か、もしくは自分でなければ倒せない故の判断なのか不明だ。
しかし、カリアンは反対はせず、決まったように恭しく礼をするだけだった。
「さあ、もう少しで女神様の復活だ」
嬉しそうに教皇が弾んだ声を出す。頭を下げているカリアンの表情は――見えなかった。
〜〜あとがき〜〜
間話を入れて、次の章に進みます。
次の章では、教皇は大きく動きませんが、展開はいろいろあるのでよろしくお願い致します。
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