コミック1巻記念SS(表)「ギュンターがコミックを読むようです」





 ――二月二十五日。


 ギュンター・イグナーツは特別に取り寄せた『いずれ最強に至る転生魔法使い コミック一巻』を手に取り、恍惚しとした表情を浮かべていた。


「ふう。僕としたことが、表紙のサムを見ただけてビンビンになってしまったよ。ふっ、紳士として恥ずかしい」


 紳士以前の問題であるが、ギュンターにツッコミを入れてくれる者は残念ながらいなかった。

 記念すべきコミック1巻の発売なので、誰にも邪魔されずに読もうと魔力をすべて使い切って部屋に結界を張っているのだ。


「嗚呼、書籍版のサムも可愛らしくて絶頂ものだったが、コミック版のサムも、た・ま・ら・な・い・ねっ!」


 きらん、と白い歯を光らせて、表紙にサムにウインクをする。


「はぁはぁ……じゃあ、さっそく、御本を開いてしまおうかな……はぁはぁ」


 ぺらり、と本を捲ると、カラーイラストのウルリーケ・シャイト・ウォーカーがギュンターの視界に飛び込んできた。


「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 訓練された変態であるギュンターは、絶頂した。


「う、ウルリーケのおへそが布漉しなのにはっきりと……これはいいぞぉ。いいぞぉ! ――はっ、しかし、世の中のみんなに僕のウルリーケがいやらしい目で見られる可能性が!」


 懊悩するギュンターであるが、自分の欲望を優先してページを捲る。

 そして、再びのけぞった。


「らめぇえええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 ギュンターが見たのは、彼は知るよりも少し幼いサムだった。

 しかも、寝巻きだ。

 滾らないほうがおかしい。


「嗚呼、そんな君は出会う前から僕を誘惑するんだね。なんて小悪魔なのだ! ウルリーケがショタに目覚めるのも十分に理解できる。あ、こら、ダフネくん、その立ち位置を変わりたまえ!」

「このお子様は僕のサムを木刀で殴打したと? よろしい、戦争だ」

「熊さん! 熊さんめ、羨ましいぞ! サムの初めてを奪うなんて!」

「……ふっ。落ち着け、落ち着くんだ、ギュンター・イグナーツ。ラインバッハ男爵家はもうない。ステイだ、ステイするんだ。紳士は荒ぶらない! そう荒ぶらないのだよ!」


 どうやらギュンターは、黙ってコミックを読めないらしい。

 その都度、その都度、感想を言うタイプのようだ。


「ふむ。それにしてもおかしい。僕が出ていない」


 はて、とギュンターは首を傾げた。


「僕の記憶が確かななら、ウルリーケと一緒にサムと出会い、兄と慕われていたのだが……おや?」


 とんだ記憶の改竄である。

 この頃は、ウルに会えない禁断症状抱えながら、ストレス発散を兼ねて各地で大暴れてしていた。そして、のちに妻となるクリーと運命の出会いをしている。

 しかし、ギュンターの記憶では、ウルと一緒にサムと出会い、その後四年間一緒に冒険をしているのだ。

 思い込みを通り越して、洗脳の領域だった。


「まあいいさ。サムとウルリーケの素敵な物語を読むことはいいことだ」


 ふっ、と前髪をかき上げると、テーブルにコミックを置き、一礼する。

 そしてパンツとズボンを履いた。


「――あの、なぜギュンター様は全裸で本をお読みなのでしょうか?」

「ふっ、愚問だね。それが礼儀だからさ!」

「さすがギュンター様! スカイ王国一の変態ですわ!」

「よしてくれたまえ。僕は賛辞に弱いのだよ……おや?」


 おかしかった。

 厳重にこれでもかと張ってある結界の中に、自分以外の声がするのだ。

 しかも、できることなら今、一番聞きたくない声である。

 恐る恐る声の方を振り返ってみると、ギュンターの妻クリーがいた。


「な、なぜ、ママが?」

「なぜと言いましても、妻は夫のそばにいるものでしょう?」

「そ、そうではないよ! 僕はママ対策の結界をこれでもかと張っているのだよ! 魔力がからっからになるまで張り巡らしたのに!」

「ええ。素晴らしい結界です。さすがのわたくしも入れないでしょう」

「な、ならばなぜ?」

「最初からベッドの下におりました」


 ぽっ、と頬を染めるクリーに、ギュンターは絶句した。

 結界を張ることばかり考えていて、まさか事前にクリーが部屋の中にいるとは考えもしなかったのだ。


「しかし、いいことを聞きました」

「な、なにかな」

「ギュンター様の魔力は空であると。つまり、やりたい放題ですわね!」


 にちゃー、っとクリーが咲う。


「ぴぃ!」


 小鳥のようにか弱い声を出してギュンターが後ずさる。


「うふふふふ。わたくしもコミック1巻の宣伝をギュンター様と頑張りたいですわ。コミックの売れ行きが良ろしければ、スピンオフで『いずれビンビンに至る結界術師〜幼妻といちゃいちゃ生活編〜』が始まりますもの!」

「始まってたまるものか!」

「ぐへへへへへ、さあギュンター様。わたくしたちもイチャイチャしましょう! 今日は、コミック発売記念で三割増しですわ!」

「いやぁあああああああああああああああああ!」

「あらあら、そんなに嫌がってもこっちは全然嫌がっていませんわ」

「くっ、殺せ!」

「くっコロいただきましたわ〜!」


 こうしてコミック一巻の発売日も、イグナーツ夫婦はイグナーツ夫婦だった。





 〜〜あとがき〜〜

 やっぱり記念SSはギュンターとクリーに飾っていただかないとね!

 ふたりのコミック版の登場が楽しみです!


 改めてコミック1巻が発売となりました。

 紙媒体、電子書籍とございますので、読みやすい環境でお求めいただけますと幸いです。

 コミックの続きはcomicWalker様で読めますので、そちらもぜひお願い致します!

 コミックを読んで気に入ってくださいましたら、書籍版もぜほお求めいただけますと幸いです!

 よろしくお願い致します!




 あ、18時に(裏)もあるよ!

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