75「産まれるそうです」①





 サムは、ヴァルザード、ボーウッド、エリカ、ギュンター、友也という面子で中庭で身体を動かしていた。

 ギュンターに同行してきたクリーは、リーゼ、フラン、可憐、水樹、ジェーン、ゾーイとお茶会をしている。


「さ、サム様、大変ですわ!」

「サム様、緊急事態です!」

「アリシア様? ステラ様?」


 サムを呼びに来たのは、アリシアとステラだった。

 ふたりは身重なので走ったりすることはなかったが、なにやら慌てているようだ。

 サムたちは、動きを止める。


「どうしたんですか、慌てて?」

「産まれそうですの!」

「もう産まれてしまいます!」

「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 叫んだサム以外も目を丸くする。

 それはそうだ。アリシアとステラの出産はまだ先だ。だと言うのに、もう生まれるとは何事だ。

 早産とは違う。彼女たちに何かあったのかと思い、サムは嫌な汗を流した。


「え、えっと、えっと、ゔぁ、ヴァルザード! とにかくお湯を用意するようにメイドに伝えてきて!」

「うん!」

「お、俺もいくぜ!」


 エリカが、ヴァルザードにお湯を用意するようお願いすると、ボーウッドもついていく。


「まさかサムが魔王となったことで母子に影響が? 最悪、ヴィヴィアンを呼ばなければ」

「お、落ち着きたまえ! こんなときこそ紳士は慌ててはいけない!」


 深刻そうな顔をする友也と、なぜか衣服を脱ぎ出すギュンター。

 それぞれが混乱する中、慌ててアリシアとステラが誤解を解こうとした。


「皆様、違いますわ!」

「私たちではありません!」

「え?」


 全員が動きを止めた。

 そして、彼女たちによく視線を向けると、アリシアの両腕には大きな卵が抱えられている。


「えっと、その卵なんです?」

「ダグラス様からお土産でいただいた魔獣さんの卵です!」

「孵化しそうなのです!」

「そっちかぁー!」


 ダグラスが魔獣の卵を持ってきたことは覚えている。

 魔獣も、子供から育てれば人に懐いてくれるという。安全か危険かと言えば、危険な部類なのだろうが、竜のご家族がお家にいる時点で今更だ。


「魔獣さんの赤ちゃんが産まれるのは初めてなので、どう対応すれば良いのかわからないのです」

「サム様がなにかご存知ならと思いまして」

「魔獣かぁ……」

「それなら俺に任せてくだせぇ、アリシア姉貴、ステラ姉貴!」


 サムは魔獣に関して詳しいわけではない。

 倒し方ならそれなりに知っているが、育て方になると悩む。

 そんなサムたちに手を挙げてくれたのが、ボーウッドだった。


「ボーウッドさんはご存知なのですか?」

「もちろんでさぁ。獣人族は、魔獣を飼っていましたからね」


 胸を張るボーウッドは説明を始めてくれた。


「人間の子供が産まれるときと違ってそれほど気を使う必要はありませんぜ。魔獣は生まれながら強いんでさぁ。弱かったら、他の魔獣に食い殺されちまいますからね。一番の問題は、刷り込みです」

「えっと、親として認識していただくのですね?」

「さすがアリシアの姉貴、よくご存知で。魔獣が目をかけたときに、笑顔で出迎えてやってくだせえ。最初こそ温めた牛や羊の乳でいいですが、魔獣はだいたいすぐに成長しますんで、茹でてほぐした肉を与えてやるといいっすね。個人的には野菜も食わせるべきです」


 経験があるだけあって、ボーウッドの説明はわかりやすく、アリシアとステラがうんうんと頷いている。


「ところで、どちらが親になるので?」


 ボーウッドの何気ない疑問に、「あ」と考えていなかったようでアリシアとステラが顔を見合わせる。

 そして、ふたりの間に火花が散った。





 〜〜あとがき〜〜

 ついに明日2/25にコミック1巻発売です!

 何卒よろしくお願い致します!

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