66「ヴァルザードのこれからです」②
ローガンは椅子に座ったまま、ヴァルザードと視線を合わせて穏やかに微笑んだ。
「ちゃんと挨拶をせずに申し訳ない。私はローガン・イグナーツ。スカイ王国公爵家の当主であり、国王陛下のツッコミ役――おっと、失礼、相談役をしている」
「今、ツッコミ役って言ったー!?」
「ははははは、サム。些細な違いだ。さて、ヴァルザードくん。君にはお母上がいることは承知だが、この国で生活していくのなら基盤は必要だ。ギュンターが兄として役目を果たそうとするのならば、必然と私が義理の父になる」
「えっと」
「難しく考えることはない。名を変えろとは言わない。君は今までの君だ。ただ、公爵家の養子になっておくといろいろ都合がいいし、なにかあったら我が一族が責任を取るということを示すこともできるのだよ」
「でも」
「遠慮はいらないよ。私にも君を息子にするメリットがある」
サムは首を捻った。
ヴァルザード息子として迎えることでローガンにどんなメリットがあるのだろうか。
「ようやく普通の息子が我が家にきてくれることを歓迎しよう!」
「そっちかぁ!」
イグナーツ公爵家は、長男は自由気ままであり、ギュンターは突然変異みたいな変態だ。嫁に至っては、そんな突然変異の変態を超越している。そこにヴァルザードという出自こそ複雑な子であるが、見た目は好青年であり、中身もギュンターが弟にしようとするくらいなので根は悪くないのだろう。
魔王たちにとっては無視できない危うい立場であるかもしれないが、その魔王たちが受け入れるならば、スカイ王国で暮らすにあたって公爵家ほど後ろ盾として頼りになる家はない。
なんせなにかやらかしても「ほら、イグナーツ公爵家の」で済むからだ。
ギュンターの築いてきた基盤は、ヴァルザードを受け入れるに問題なかった。
「……僕だけが、普通に過ごすなんて」
「ヴァルザードくん。君のお母上、オクタビアくんは僕に君を託した。幸せにしてほしいと。僕には君を幸せにする責任がある。そして、君もまた幸せになる権利があるのだよ」
「でも、僕はママたちを助けたい」
「そこは追々話をしようではないか。まず、健全な生活をし、心と身体を成長させよう。君が戦わずとも、変態魔王たちがいずれオクタビアくんたちとぶつかるだろうから、救出は任せればいいのさ」
要は魔王たちに丸投げすればいいと言ったギュンターに、友也が顔を引き攣らせた。
「……オクタビア・サリナス程度の魔族なら、殺さずとも無力化はできますけどね。ただ、どのような形で敵対するのかわからない以上、確約はしませんよ。殺したほうが楽なのなら、僕は躊躇わず殺します。オクタビアに思い入れはありませんし、ヴァルザードくんにもさして興味がないので」
「この薄情者め! 君は度し難い変態だが、なんだかんだ面倒見のいい男だと思っていたというのに!」
「僕にどうしろって言うんですか」
「ヴァルザードくんは肉体こそ僕に劣らぬイケメンな青年だが、心はまだ子供だ。君は千年以上生きているのに、不安にすることばかり言って、もっと気遣うことができないのかね」
「……僕としては君がヴァルザードくんに肩入れしていることが意外です」
友也の指摘に、「ふっ」とギュンターが気障ったらしくポーズを決めた。
「紳士たる者、いつだって子供には優しいのさ!」
「さすがですわギュンター様!」
「ふははははは! 苦しゅうない、褒めたまえ!」
クリーによいしょされて上機嫌のギュンターが声高々に笑っていると、足元に魔法陣が浮かんだ。
「おっと、カルの転移魔法だ」
光を放つ魔法陣から、エヴァンジェリン、ゾーイ、ボーウッド、薫子、カル、ダフネ、ダニエルズ兄妹が現れた。
〜〜あとがき〜〜
コミック1巻2/25発売です!
何卒よろしくお願い致します!
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