67「ヴァルザードのこれからです」③
「――ボーウッドくん」
ヴァルザードは思わず椅子から立ち上がってしまった。
命令とはいえ、魔王になりたがっていた彼を唆し、力を貸すふりをしてサムと戦わせ、最後には裏切り、背後から胸を貫いた過去がある。
魔王ヴィヴィアン・クラクストンズが治療したからこそボーウッドは一命を取り留めたが、本来ならば死んでいただろう。
ヴァルザードは、彼にどのような恨みを、罵声を浴びせられるのか恐れた。
ボーウッドには自分を責める権利も、いや、殺しても誰も文句を言わないだろう。
それだけのことをしたのだ。
何よりも、あとで罪悪感を抱いたものの、当時は命令は絶対であり、楽しかったのだ。
母の役に立てることが嬉しかったのだ。
ボーウッドを殺そうとしたのだって、利用したが使えなかったので排除しようとしただけだ。
(ははは……僕もあの男となにも変わらないじゃないか)
涙が出そうだった。
母を操り、自分や兄弟をいい様に使おうとする、名も知らぬ自称父親となにも変わらないことをヴァルザードは自覚した。
だが、涙を流せば、ボーウッドも自分を責めにくいだろう。
彼とは少しの間、一緒にいたが、気のいい獣人だ。
たとえ恨んでいても、泣いている人間を責める様なことは絶対にしないと知っている。
だから、償うため、涙を堪えた。
「ヴァルザード! お前、大変だったみたいじゃないか。怪我はしていないか? 俺に力になれることはないか? 遠慮せずなんでも言ってくれ!」
ヴァルザードの覚悟に反して、ボーウッドは駆け寄ると案じているとはっきりわかる顔をして、気にかけた言葉をくれた。
目を丸くしてヴァルザードが驚く。
「ボーウッドくん……どうして」
「どうしてって、変態公爵を攫ったのがお前で、一緒に帰ってきたってなら何かあったと思うだろう。俺と一緒に行動していたときも、お前はどこか危うかったからな。ずっと心配していたんだ」
「……違う、違うよ、ボーウッドくん。君は僕を恨んでないの?」
「恨み? ああ、裏切って背後から一撃くれたな! んなもん、もう忘れちまったよ!」
豪快に笑う獅子族の獣人に、ヴァルザードは涙をこぼした。
「お、おい、ヴァルザード? どうした、どこか痛いのか?」
「ううん。ありがとうボーウッドくん」
「礼を言われる様なことはなんもしていないんだがなぁ」
困った顔をしたボーウッドに、サムたちは感心していた。
利用され、裏切られてながら、ボーウッドはヴァルザードを案じていた。
訳ありだと知り、気にかけることもできる。
敵を敵、味方を味方とはっきり分けてしまうサムたちにはなかなか難しいことだった。
「ボーウッドかっけぇ」
サムが男前なボーウッドに小さく拍手した。
「ボーウッドさんは、懐と器だけなら魔王級っすね」
カルでさえ感心してそんな呟きをもらすと、誰もが同意する様に頷いたのだった。
〜〜あとがき〜〜
ボーウッドさんかっけぇ!
コミック1巻、2/25発売です!
何卒よろしくお願い致します!
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