51「囚われのギュンターです?」③
「ギュンターお兄様! よろしければ、お茶を淹れるのでご一緒してくだしませんか?」
「ありがとう、ジュリー。君の入れたお茶は美味しいからとても楽しみだよ」
「ギュンターお兄ちゃん、お花の冠を作ったからあげる!」
「素敵な冠をありがとう、デイジー。これで僕も一国の王だね!」
「ギュンター兄ちゃん、僕と遊んでほしいな!」
「もちろんさ。しかし、その前にお茶会にしよう。さあ、トニーもきたまえ」
「ギュンター兄さん。あとで訓練に付き合ってほしい」
「ジーニアス、もちろんだとも。君はとても強く、成長も早い。手合わせが楽しみだよ」
ギュンター・イグナーツがヴァルザード・サリナスによって、彼らの隠れ家に連れて行かれてから三日が経った。
実りの多い畑がよく見える庭に、どこから持ってきたのか日傘付きのテーブルを出し、白いスーツを着こなして優雅にお茶をするのはギュンターだ。
とてもではないが、攫われた人質ではない。
挙句の果てに、子供たちをあっという間に手懐けて「兄」として慕われてしまった。
「……攫ってきた変態が、我が家の子供に大人気な件。家が乗っ取られたりしないわよね?」
まるで最初から一緒に暮らしていたのではないかと勘違いしてしまうほど、子供たちと仲良く過ごしている変態にオクタビアは動揺を隠せないでいる。
「まったく……あの人はこういう時に戻ってきてくれないし。ヴァルザードを勝手にスカイ王国に行かせたことだって文句を言わなければならないわね。あんな純粋な子が悪影響を受けたらどうするのかしら」
オクタビアからすれば、わざわざサミュエル・シャイトに喧嘩など売らず、女神を探してさっさと復活させてしまえばいいのだ。
面倒ごとをさっさと済ませてしまえば、あとはゆっくり家族と暮らすことができる。
「――あら?」
思考の途中で頭痛を覚えた。
「違うわね。愛する夫のために、女神を見つけて封印を破り、私が女神として成り代わらなければならないわ」
なぜ忘れていたのだろうか、と額を抑える。
数多の文献を精査し、導き出した結果、四人の聖女によって女神の封印は解かれることはわかった。しかし、ただ封印が解かれても駄目だ。
封印はあくまでも解除であり、破壊である。オクタビアにも破壊方法までわからなかった。
つまり、蓋を開けても、取り出すことができないのだ。
そこで考えられたのが、女神を出す代わりにオクタビアが封印の中に入るということだ。
オクタビアの望む、女神になることは、封印されて初めて叶う。
――少なくともオクタビアはそう思っている。愛する夫に説明されて、感嘆し、賞賛し、喜んで受け入れた。子供たちのことが心配だが、夫がちゃんと面倒を見てくれると約束しているので問題ない。
「早くあの人に喜んでもらいたいわ」
しかし、オクタビアは愛する夫が女神を解放してなにをしたいのかなにも知らない。
知らないでありながら、盲目に協力し続けているのだ。
子供たちと笑顔でお茶を飲んでいたギュンターは、オクタビアを一瞥してから、残念そうに目を伏せた。
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