46「勧誘されました」





「――はじめまして、サミュエル・シャイト。私は、神。人と愛を司る女神です」

「そこまで自己紹介したのなら、ちゃんと名乗れよ」

「その不遜な態度は、信仰心のない転生者であるからとしておきましょう。神が人に名乗る名などありません」

「あ、そう」


 幼いサミュエルの顔で、女性の声が響く。

 まさか女神がコンタクトしてくるとは思わなかった。

 封印されているようだが、しっかり封印しておけ、と思ってしまう。


「その女神様がなんの用だよ」

「取引をしましょう」

「はぁ?」

「あなたは私にさして興味はないでしょう?」

「そうだね。全然興味ないね。ただ、ほら神聖ディザイアとかがあんたを復活させようとしているし、こっちも殺される前に殺さないと」


 魔王になったことで、魔族の友人も増えた。

 家族も増えた。

 そんな魔族を意味嫌い亡き者にしようとしているのなら、相手が女神だろうとなんだろうと戦うしかない。

 ただ、サム個人的には女神にあまり興味はない。

 異世界転生したときも神に会ったわけではないし、友也のようにいるという確信もないのだ。


「提案をしましょう。あなたはまだ魔王に成りたてです。少々、骨を折ることになりますが、人に戻る手段をいくつか教えますので、戻りましょう。人にさえ戻ってくれれば、あなたに手を出すことはしません。約束しましょう」

「あのさぁ、仮に戻ったとしても力が強すぎて人間の身だと死んじゃうんですけどぉ」

「すでに魔王に至ったことで、肉体も器も拡張されています。問題ありません。人に戻り、人として生き、人として死になさい」

「いーやーでーすー。なんであんたに命令されないといけないんですかー?」


 魔王になると決めたのは、すべてサムの選択だ。

 後悔はない。

 リーゼたちといずれ別れてしまう日も来るだろうが、それまで精一杯愛すると決めている。

 その覚悟を、決意を、女神だかなんだかわからない存在に変えろと言われる筋合いはないのだ。


「いいでしょう。ならば、あなたを特別扱いしましょう。私のものとなりなさい。人に戻り、私のもとで忠誠を近い、その力をこの星に蔓延る魔族たちを屠るために使うのです。さすれば、その見返りに、私はあなただけに愛を捧げましょう」

「嫌だよ、ブース!」


 話の急な方向転換に驚いたが、はっきりお断りさせていただく。

 人に戻らないと言ったのに、なぜ忠誠を誓ってもらえると思ったのだろうか不思議だ。

 女神は耳がないのか、と考えてしまう。


「……私からの提案を断ると言うのですか?」


 若干、苛立ちが声に混ざった気がした。


「あのさぁ、俺が自分可愛さに友達や家族を裏切るわけねえだろっ、このバーカっ!」


 そもそも本当に女神かどうか怪しい。

 神聖ディザイア国が崇める女神であることはなんとなくわかるのだが、サミュエルを通じてこちらに話しかけている彼女は女神というか人間臭い。

 もとは人間だったゆえだろうが、本当に神に至ったとでもいうのか。

 神に成ることをどれだけしたというのだろうか。


 わざわざサムに接触し、勧誘してくるなんて実に安っぽい。


「いいでしょう。あなたは二度と手に入ることのない神の恩恵を自ら捨てたのです。では、ペナルティを与えましょう」

「は?」

「私は現在、封印によって雁字搦めにされていますが、こうしてあなたに干渉できるくらい封印は弱まりました。今日はあいさつと、嫌がらせにきただけです」

「嫌がらせって。勧誘ができなかったから、なかったことにしやがったな」

「ペナルティはそうですね……あとのお楽しみにしていなさい。そう遠くないうちに、作動するように仕掛けをしておきました」

「……陰湿! ブースブース!」

「いい加減にしなさい! 学校で一番の美少女に選ばれたことのある私をブスですって!? 封印が解けたら、お前をぐちゃぐちゃにしてやるから! 覚悟しておきなさい!」


 捨て台詞を言って、女神の気配は消えた。


「絶対、女神も転生者か転移者だな。薄々はわかっていたけど確信が持てた。問題は、どうしてそんな人が神になったのか。もしかして、自称じゃない?」





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